高齢者ドライバーによる重大事故が後を絶たない。免許の返納が進まない背景にあるのが、公共交通機関の乏しさだ。そんな中にあって徳島県内の小さな地区の試みが全国から注目を集めている。

 美馬市南部の木屋平地区。旧木屋平村で、過疎高齢化が進む山村だ。合併によって市の周縁部となった地区は、人口減少と高齢化が加速した。現在の人口は600人を切り、高齢化率は6割を超える。

 公共交通機関は穴吹町とを結ぶバスが1日3便だけ。今後高齢化は進む一方で、運転への不安も高まる。「このままでは…」。住民は立ち上がった。「住民同士で支え合う仕組みができないか」。定年退職した比較的若い高齢者が運転手となり、免許を持たなかったり返納したりした高齢者を運ぼう。法律に基づく過疎地有償運送事業に乗り出し、NPO法人を設立した。

 料金や仕組みは住民で考えた。住民が利用しやすいよう、支える人が負担にならないよう話し合い、1台当たり1キロ130円で待ち時間は1時間200円とした。複数人で乗り合わせれば1人当たりは安くなる。面積の広い同地区は、中心部にある木屋平診療所や市総合支所、JAなどに行くのにも一苦労。低価で利用できるサービスは、住民に好評を呼び、地区内の移動だけでなく、病院や買い物などのため美馬市脇町のほか、徳島市に出向く人もいるという。

 かつて免許を保有していた80代の女性は「実は、免許の更新を忘れてしまって…。でも良かったと思います。事故の心配はなくなりましたし、息子も安心しています。諦めがついたのも、NPOがあったからです」と言い、今では診療所に行く際などに利用している。

 こうした活動は全国的に注目され、視察や講演依頼が相次いでいるという。ただ導入する地域は意外と少ないそうだ。公共交通機関やタクシー会社が客が流れる心配をしたり、地域の住民の意見がまとまらなかったりするためとみられる。

 なぜ木屋平ではうまくいっているのか。NPOの理事長は「昔から住民同士で助け合う文化があったからこそ、地域に溶け込んだ」と話す。その上で「どうしようもないほど切羽詰まっていたこともある」と続ける。かつて行政頼みだった住民も、合併によって行政の距離が遠くなったことから自ら立ち上がらざるを得なかった。このため、行政からの補助金はない。この点についても理事長は「補助金頼みだったら甘えもできるし、削減されたり廃止されたりしたら事業が立ちゆかなくなる」と強調する。

 高齢者の交通手段は全国的な社会問題。もちろん、木屋平のような取り組みがどこでもで、できるものではないし、全て問題を解決するものではない。ただ、いち早く超高齢化社会に直面した木屋平だからこそ生まれたアイデア。一つの事例としては大いに参考になるのでないだろうか。(卓)