県内外の約600人の合唱団が「歓喜の歌」を響かせた「第九」演奏会=2日、鳴門市文化会館

初めて合唱団の一員として「第九」を歌った筆者(前から3列目、左から2人目)=2日、鳴門市文化会館

「第九」について理解を深めるワークショップの全体会=1日、鳴門市健康福祉交流センター

 ベートーベン「第九」交響曲演奏会が鳴門市文化会館で開かれた2日、合唱団の一員(テノール)として初めてステージで「第九」を歌った。第1次世界大戦中の1918年6月1日、板東俘虜収容所のドイツ兵捕虜が「第九」をアジア初演してから101年。大合唱団が心を一つにした一体感や高揚感を体験しながら、「第九の聖地」で歌える喜びをかみ締めた。(藤長英之)

 こうこうと光る照明の熱さに耐え、第1楽章から4楽章の途中まで、ステージ上のひな壇にじっと座りその時を待つ。バリトンのソリストの独唱が始まると、いよいよ合唱団の出番だ。約600人の合唱団員と一斉に立ち上がり、気持ちを込めて「フロイデ(歓喜)」と声を張った。

 不思議と本番では緊張しない。「音程は大丈夫だろうか?」「歌詞は間違わないだろうか?」。そうした不安は大合唱の歌声に紛れて吹き飛ばされる。

 「全ての人々は兄弟になる」「抱き合え、幾百万の人たちよ」―。「第九」の歌詞として繰り返されるベートーベンのメッセージを胸に刻み、「この思いよ、全世界に届け」と声を重ね合わせる心地よさに体を委ねた。

 「やっぱり本番の舞台に出てみんで」

 「鳴門の第九」を運営する認定NPO法人鳴門「第九」を歌う会の人たちに強く勧められたのは5月に入ってからだった。

 昨年6月の初演100年に向けた徳島新聞の長期連載「第九永遠なり」を担当し、「実際に歌ってみたい」と昨年末から練習を始めた。しかし、仕事と練習の両立ができず、いったんは断念してしまっていた。

 「第九」の演奏はコンサートやCDで繰り返し聴いていたが、これまで歌ったことはなく、合唱経験もない。「本番までに間に合うのだろうか」と不安がよぎった。それでも令和元年、101年目の新たなスタートラインに立つ「鳴門の第九」に参加したいと、気持ちを固めた。

 時間に都合がつく限り鳴門市文化会館で開かれる練習会に参加した。通勤途中の車内などでは一人声を張り上げ、ドイツ語の歌詞とメロディーを体にたたき込んだ。

 「第九」は全4楽章で70分余りの大作とはいえ、合唱部分は16分程度だ。しかも、歌詞はベートーベンがメッセージを凝縮させているため、反復する語句がとても多い。高度な歌唱技術は身に付くはずもないが、何とか舞台に間に合わすことができた。

 「鳴門の第九」には毎年、県外から約400人の愛好家が駆け付ける。本番前日には板東収容所の歴史や「第九」について学ぶワークショップが開かれるほか、本番後には交流会もあり親睦を深める。連載取材でお世話になった多くの人たちと再会でき、近況を語り合った。

 今年で38回目を迎えた「鳴門の第九」にはリピーターが多く、さながら盆や正月の同窓会のよう。人道精神に満ちた板東の史実や、そこで歌われたアジア初演の歴史は愛好家を引き付けるのだろう。鳴門の人たちも「お帰りなさい」と全国の合唱団員を出迎え、会場周辺は温かい雰囲気に包まれる。

 いったん歌詞を覚えれば、世界中のどこの舞台にも出演できる。「第九」は国際交流を図る一つのツールだ。その歌詞を「第九の聖地」の鳴門で覚えたとなれば、大きな付加価値にもなる。

 2020年の「鳴門の第九」は6月7日に開かれる。来年はベートーベン生誕250周年。節目の年の演奏会に向け、未経験の皆さんも一緒に「第九」を歌ってみてはどうだろか。