米国とイランの軍事的緊張が高まる中、安倍晋三首相が現職首相として41年ぶりにイランを訪問し、最高指導者のハメネイ師やロウハニ大統領と会談した。

 日本が両国と友好関係にあり、双方から緊張緩和に向けた仲介役を期待されたからだが、夏の参院選に向けて国際舞台で存在感を示し、アピール材料にしようとの思惑もあったようだ。

 だが、米国とイランは40年以上にわたって敵対関係にあり、溝を埋めるのは容易ではない。両首脳との会談でも、橋渡しを実現することの難しさが浮き彫りになった。

 もとより、今回の訪問だけで成果を期待するのは性急に過ぎよう。これを機に、日本をはじめ国際社会が、米国とイランの対話の道が開けるよう、粘り強く働きかけることが重要だ。

 日本の首相がハメネイ師と会談したのは初めてで、同師が外国の首脳と会うのも珍しいという。日本との関係を重視し、安倍首相の訪問に期待を寄せていた証しだろう。

 しかし、米国への不信感は強く、「緊張を高めているのは制裁を強める米国だ」と主張。トランプ大統領との対話にも否定的な考えを示した。

 確かに、軍事的緊張を招いたのは、トランプ氏が2015年のイラン核合意から一方的に離脱し、経済制裁を復活させたのが発端だ。

 イランは、歳入の柱である日本などへの原油輸出が激減したことで経済が疲弊している。国際通貨基金(IMF)は今年の経済成長率をマイナス6%と見込む。

 イランを経済的に追い込めば、核合意の存続も危うくなり、中東地域だけでなく世界に深刻な影響をもたらすことになる。首相はトランプ氏に制裁緩和を直言すべきだ。

 イランの首脳もトランプ氏も「軍事的な衝突は望んでいない」としている。ところが、首相が訪問中にイラン沖のホルムズ海峡近くで日本や台湾などのタンカーが攻撃を受ける事件があった。

 この付近では、5月にサウジアラビアの石油タンカーなどが攻撃を受けたばかりだ。

 米側はいずれもイランの関与を指摘しているが、イランは否定している。制御不能の事態が起きかねない状況だ。いたずらに緊張を高める行為は断じて許されない。

 今回の訪問は、対話の糸口や緊張緩和への道筋が見いだせないままで終わった。だとしても、これで仲介役を投げ出すわけにはいかない。首相にはあくまで中立の立場を崩さず、相互不信を和らげる努力を続けてもらいたい。

 今月末には大阪で、20カ国・地域首脳会議(G20サミット)が開かれる。イラン核合意の当事国や、イランと敵対関係にあるサウジなども参加する。

 議長国である日本が事態打開へ指導力を発揮できるかどうか、国際社会も注視している。仲介外交の真価が問われるのはこれからだ。