コーヒーゼリーはバニラアイスが山盛り。40年間愛されてきた

3代目店主の馬場淳さん。ネルドリップでコーヒーを入れるのがこの店のこだわり=徳島市通町1

 商売繁盛の神様「えびすさん」で知られる徳島市通町。細い路地に商店や民家が軒を連ね、かつて交通の要所だった町の歴史を思い起こさせる。喫茶店「いかりや珈琲店」はこの地で営み60余年。店頭に自家焙煎のコーヒー豆がずらりと並び、店内の壁や床はレトロなタイル張り。木製カウンターが奥まで延び、落ち着いた老舗の趣を感じさせる。

 この店の看板商品が、1981年から40年近く販売されているコーヒーゼリーだ。グラスからあふれそうに盛られたバニラアイスが目を引く。

 「インスタ映え」が脚光を浴びる昨今、客層はさらに広がっている様子で、隣の席からは「カシャ」という電子音が。若い女性客がスマートフォンで楽しそうに撮影している。

 考案したのは2代目の馬場智恵子さん(77)。客に喜んでもらおうと、アイスの量をどんどん増やしてこの形になった。ゼリーに使うコーヒーはハンドドリップで入れる。ほのかな苦みと、アイスの優しい甘みが程よく調和し、ボリューム満点ながら、ぺろりと完食してしまう。

 長男で3代目の淳さん(53)は「採算はどうだろう...。あまり考えないようにしています」と笑う。

 徳島市の阿波踊り期間中の4日間には2500個を売り上げる。風味を一定に保つため、一度に入れるコーヒーの量は7個分が限度。だから何百回も同じ作業を繰り返す。

 徹夜で準備し、店の冷蔵庫や冷凍庫を満杯にしても、踊り初日までに全てはそろえられない。「さすがにお盆の後はコーヒーゼリーを見たくなくなるけど、売り切れ御免では買いに来てくれるお客さんに悪いから」と淳さん。

 いかりや珈琲店は、祖母の芳子さん(故人)が55年5月18日に創業した。鏡台職人の夫を太平洋戦争で亡くし、幼い智恵子さんと共に生活していくために選んだのが純喫茶だった。東京で見た「ミルクホール」と呼ばれる飲食店に触発されたのがきっかけで、自宅の鏡台店を改装。徳島では当時珍しかった焙煎機を購入し、本格的なコーヒーを提供した。

 飲食業界は昔から水物といわれ、経営の見通しが立てにくい。店名には「大海原でも荒波に流されないように」との思いが込められた。

 後に智恵子さんが店に加わり、県外企業に勤めていた淳さんがUターンして3代で切り盛りするように。淳さんは、芳子さんから直接焙煎の仕方を5年がかりで学んだ。現在は智恵子さんと淳さんに、淳さんの姉とアルバイトの4人が働く。

 焙煎機も年代物で、40年近く現役だ。コンピューターで自動制御できる機械が普及しつつあるものの、更新する予定はない。「じかに目で見て耳で聞き、香りをかぎながら豆の状態を探るのがいい。機械の癖は知り尽くしたつもり。たまにへそを曲げるけど、機嫌を取りながらいい豆を作ってもらってます」

 取り扱う豆の銘柄は20種ほど。この中で、芳子さんが配合を考えた「Bブレンド」は創業時から変わらず受け継がれており、店で提供されるオリジナルブレンドのコーヒーや、コーヒーゼリーに使われている。ネル(起毛生地)でコーヒーを入れるのも創業当時から変わらない。ろ紙を使うよりも甘みやコクを抽出しやすいそうだ。

 客層は昭和から様変わり。近くの徳島中央郵便局や徳島市役所の職員、商店主が多かったが、今は女性客が大半を占める。

 新しいカフェが増え、コンビニでも入れたてのコーヒーが飲めるようになってきた。そんな中、地域のイベントに出店するなど、常に刺激を受けることを忘れないという淳さん。「おいしいコーヒーを飲みたいと思った時に選ばれるよう、真面目に勉強を続けたい」と話している。

 営業時間は平日が午前8時から午後6時半、土曜は午前9時から午後5時、徳島市の阿波踊り期間中は午後10時まで。日曜と祝日定休。コーヒーゼリーは600円。持ち帰りできる。問い合わせは<電088(623)0808>。