米国の経済制裁に苦しむイランが、2015年の核合意に定められたウラン濃縮度の制限を無視し、引き上げに踏み切った。

 上限の3・67%を超え、原発燃料並みの4・5%に達したという。しかも、必要に応じて20%に高める選択肢もあるとしている。

 イランは今月1日、低濃縮ウラン貯蔵量の上限を超過させているが、濃縮制限は核合意の根幹であり、深刻な合意違反と言わざるを得ない。

 米国はもとより、イランに同情的だった合意当事国のドイツや英国、フランスなどからも批判や懸念の声が上がっている。当然だろう。

 イランの強硬姿勢の背景には、経済的な打開策が進まないことへのいら立ちがある。そうだとしても、履行停止は孤立を深めるだけだ。

 イランは自制すべきだ。国際社会も、合意事項を順守するよう説得する必要がある。

 イランは5月8日、米国を除く合意当事国に対し、60日以内に制裁緩和で進展がなければ、ウラン濃縮などの制限を守らないと警告していた。

 今回の引き上げで、直ちに核兵器を製造できるわけではない。ただ、20%程度に達すれば、その後は比較的容易に濃縮度を高めることができるとされる。

 さらに、進展がなければ再び60日後に合意の一部履行をやめるとも公言した。

 合意違反を揺さぶりの材料にして関係国に圧力を掛け、経済支援を引き出す狙いのようだが、瀬戸際戦術は自らの首を絞めるだけだ。

 政府は核開発の意図はないとしている。最高指導者ハメネイ師も、6月にイランを訪れた安倍晋三首相に「核兵器の製造、保有、使用はしない」と明言した。

 しかし、濃縮度を大幅に上げれば国際社会の疑念は確実に強まることになろう。

 核合意は米国の離脱後、最大の危機を迎えている。イランは離脱を否定するものの、あくまで今後の状況次第で、英独仏をはじめ欧州諸国の支援が欠かせない。

 各国はこれまでも、米国の制裁を回避しながら欧州とイランとの貿易を行う「貿易取引支援機関(INSTEX)」をパリに創設し、運用を始めるなど、イランへの配慮を見せてきた。

 ただ、取引できるのは医薬品など人道物資に限られる。主力輸出品である原油の輸入には踏み込めておらず、イランは不満を募らせていた。

 仏政府などは、全当事者による対話再開を検討中としているが、有効な支援策を打ち出せなければ、核合意は消滅に近づくことになる。

 懸念されるのが、トランプ米政権による圧力強化だ。ペンス副大統領は軍事的対応も示唆したが、イランの脅威をあおれば、中東地域一帯で核開発競争に発展しかねない。

 米政権は挑発と圧力をいつまで続けるのか。修復不可能になる前に、外交による解決の道を探ってもらいたい。