保護者らにあいさつする川島高校の選手たち

 夏の甲子園に出場する各県の代表校が続々決まっている。今年の大会は「令和初の」「101回目の」「新時代の幕開けとなる」などが枕詞として使われるが、時代は変わろうとも回数を重ねようとも、変わらないことがある。3年生にとっては毎年、「最後の」大会である。

 27日に行われた徳島大会準々決勝の池田対川島戦を観戦した。試合は、池田が中盤に川島を突き放し、逃げ切った。「最後の」大会であるため、負ければ、3年生は引退となる。だから試合後には3年間の思いが凝縮される。

 試合後、川島の選手たちがベンチから出てきた。帽子を目深にかぶり、肩を震わす。土にまみれたユニホームで涙をぬぐっても、あふれる涙は止まらない。

 選手たちを待っていたのは、スタンドで応援していた友だちや保護者、関係者らだ。少し落ち着いた後、選手たちは整列し、森本迅主将があいさつする。「3年間、僕たちの野球を応援していただいて本当にありがとうございました。最後まで川島らしい野球を続けられて、悔いはないですが、甲子園に行きたかったです。僕らの意志は後輩が継いでくれると思うので、後輩は必ず甲子園に行ってくれます。この仲間で、今まで支え合ってきて、試合ができて本当に楽しかったです。最後になりますが」、これまでよどみなくしゃべっていたが、間が空く。少し涙声になりながら「こんなキャプテンを、こんなチームを、最後まで応援してくださった家族や生徒や先生方に本当に感謝しています」と続けた。最後は全員で「ありがとうございました」と大きな声で伝えると、保護者らから言葉が相次いだ。「ありがとう」「ありがとう」「ようやった」「よう頑張った」「良かったぞ」。拍手が続く。真っ黒に日焼けしたお父さんは、人目をはばからず号泣する。カメラを構えていたお母さんは、タオルで顔を覆う。3年間の思いがこみ上げるのは、選手たちだけではない。

 あいさつが終わると、山根浩明監督を選手たちが囲み、「最後のミーティング」が始まった。山根監督は「本当に君たちらしい試合だった。最後まで諦めず、笑顔で全力でやってくれ、君たちらしかった」と切り出す。「勝たせてやれなかったのは自分の責任。力のあるチームになってくれ、今まで1番努力したチームだった」と続け、「甲子園は難しかったけれど、ここからが勝負。次のステージで、1番になる、というスローガンを守って、それぞれの場所で1番になってほしい。勝てなかったのは悔しかったけど、悔いはないです。次のステージでは1番になれるよう努力を続けていきましょう」と呼び掛けた。。

 全員が「はい」と言い、主将の号令で「ありがとうございました」と締めた。

 この後、3年生が動き出した。どこに行くのかと思ったら、一塁側の池田高校の選手の元だった。激励するためだった。同じ県西部の学校。なじみの選手たちもいるのだろうか。さっきまで悲しみにくれていた川島の選手たちも、笑顔で池田の選手たちにエールを送る。同じ目標に向かって頑張った選手同士。試合が終われば敵味方はない。どこか通じ合うものがあるのだろう。

 そんな雰囲気に、誰かが声を掛けた。「みんなで写真を撮ろう」。両チームの選手たちがカメラに収まった。終わった夏と、続く夏。心に抱く思いは少し違うかもしれないが、チームの枠を超えて、さわやかな表情が並んだ。(卓)