阿波藍の産地として知られる徳島県上板町に、藍の栽培から染料の蒅(すくも)作り、染色、仕上げまでを一貫して手掛ける藍師・染師たちがいる。元地域おこし協力隊員や移住者ら若手6人で活動する「BUAISOU」。海外でのワークショップをはじめ、国内外の有名ブランドとのコラボレーションを展開するなど、藍染の新時代を切り拓いている。

BUAISOUインスタレーション「藍の寝床」より

 江戸時代、蒅を固めた藍玉が廻船(かいせん)によって運ばれ、全国に阿波藍が普及した。今、藍の魅力は、SNSという船に乗り、ネットワークの海を渡って世界へと広がりつつある。 
 
 BUAISOUの活動を支えているのも、SNSによる情報発信だ。インスタグラムやフェイスブックを駆使し、日本語と英語の説明文を付けて日々の情報を更新する。天然藍が深く冴えるワークシャツやトートバッグ、藍液の泡「藍の華」をすり込んだ大谷焼窯元のマグカップ―。意匠を凝らした作品の数々が紹介され、世界中の人たちの目を引き付けている。 
 
 海外の雑誌の特集にも取り上げられ、世界的デザイナー、トリー・バーチ氏も関心を抱いた。彼女のブランド「トリーバーチ」とコラボレーションしたドレスやチュニックは4月から東京・銀座で限定販売されている。 
 

 上板町の工房には世界各国からデザイナーが足を運び、藍染体験の申し込みも後を絶たない。3月には、米国を代表するミュージシャン、カニエ・ウェスト氏が訪れた。 
 
 「徳島の藍を世界に広めたいという思いは強い。国内だけではなく、海外もターゲットにしているイメージを打ち出すことを心掛けてきた」。代表の楮覚郎(かじ・かくお)さん(30)は、BUAISOUの戦略を語る。 
 
 楮さんは青森県出身。東京造形大学でテキスタイル(染織)を学んでいた頃、藍染の魅力に引かれ、2012年に上板町の地域おこし協力隊員に着任。隊員仲間とBUAISOUを結成した。15年の法人化以来、米国やシンガポールを皮切りに、ヨーロッパ、アジアなど各国で藍染体験のワークショップを積極的に展開している。ニューヨークのブルックリンでは15年4月から1年8カ月間、独自に工房も構えていた。 
 
 「各国のワークショップは最初は自腹で開いていたが、評判になることで招待されるようになった。名前も少しずつ浸透している」と楮さん。

5月には英国の「ロンドンクラフトウィーク」に招かれ、藍染フラッグの作品を街の通りに掲げた。 
 
 現在メンバーは、楮さんら県外からの移住者4人と、石井町出身のファッションデザイナー三浦佑也さん、徳島市出身でマネジメント担当の西本京子さんを加えた20~40代の6人で構成する。 
 
 「土から色をつくりたい」として、蒅を作る藍師と、製品を作る染師は分業で行われる中、藍の種まきから刈り取り、蒅作り、製品化までの工程を全て手掛ける。大量生産、大量消費の時代にあらがい、時間と手間をかけて生み出される「本物のジャパンブルー」にこだわる。 

 

 地方に根を張り、伝統文化の担い手となることを決意した若者たち―。そうした文脈で注目されることが少なくないBUAISOUだが、それは彼らの一面でしかない。多くの人を引きつけるのは、発想力とデザイン力だ。伝統工芸としての藍染の概念を破り、現代感覚のクラフトとして新たな可能性を追求し続けている。 
 
 昨年、一つの大きな夢をかなえた。糸から染めた阿波藍のジーンズの製品化だ。岡本織布工場(徳島市)の協力を得て、試行錯誤しながら2年かけて完成させた。 
 
 BUAISOUの名は、日本人として公の場で初めてジーンズをはいた実業家・白洲次郎の邸宅「武相荘」にちなむ。楮さんは「天然藍のジーンズは1890年代に合成藍が流通して以降、ほとんど見られなくなった。自分たちの藍のジーンズを作るために、活動を始めたようなもの」と感慨ひとしおだ。 
 
 今春、東京造形大が開いた作品展に藍染アートを出展するなど、芸術活動にも力を注ぐ。期間限定で展示販売するポップアップ企画もめじろ押しで、7月11日から9月1日まで東京・代官山蔦屋書店の一角で開催中。形を自由に変えられる紙の器の「空気の器」アーティストシリーズの藍染作品を中心に、ポーチやTシャツなどを並べている。 
 
 阿波藍を巡るストーリーが文化庁の日本遺産に認定され、大会エンブレムに藍色が採用された東京五輪・パラリンピックは来年に迫る。より一層、阿波藍への関心の高まりが期待されるが、メンバーたちに気負いはない。「あまりイベント的な要因には左右されたくない。これからも、藍を通してものづくりを楽しみたい」。決してぶれることがない、藍に対する純粋な思いも、BUAISOUの魅力の一つだ。

深化する藍

  1. 藍切り拓く BUAISOU「土から色を作りたい」
  2. 藍が結ぶ世界
  3. ハンガリーと日本 東西の文化受け継ぎ
  4. 時間をかけ機織り 作品に藍の命を与える
  5. ここだけのこだわり服 「かわいさ」「かっこよさ」求める
  6. 世紀を超え残る色を 地域の人に恩返ししたい
  7. キルギスで「藍建て」指導 イシククリブルー発信へ
  8. 藍で彩る日常
  9. 藍染をしよう