「ジャパンブルー」。明治時代に日本を訪れた英国人は、人々の暮らしを彩る藍の色合いに感嘆し、そう名付けた。1世紀半近くを経た現代。色の美しさに加え、自然と調和して藍色が生まれるプロセスが、世界の人たちを魅了する。

インディアナ大教授(染織学)ローランド・リケッツさん

色が映し出す自然との調和や歴史

「藍で染められたものは美しい。しかし、藍を育て、染料にして布を染める。これらの仕事そのものこそが、美しい芸術だ」
 徳島で藍の染料の蒅(すくも)作りと藍染を学んだ米国人ローランド・リケッツさん(48)=インディアナ大教授(染織学)=は、藍の魅力をこう語る。大学などで藍を栽培し、蒅を作り染めている。アーティストとして、藍をモチーフにしたさまざまな作品を生み出している。
 2018年には、徳島市の県立21世紀館で発表されたインスタレーション「藍のけしき」を監修した。濃淡の違う藍色に染め上げたハンカチサイズの布451枚を、ドーム型につり下げた。ライトアップされた空間は静かで穏やか雰囲気を醸し出し、座ってゆったりとアートに浸る来場者の姿もあった。
 布は、日本、英国、イタリアなど9カ国に住む451人がそれぞれ染め、半年弱、手元に置いた。太陽の光は藍色を変化させる。置かれた場所や気候はそれぞれ違うため、一つとして同じ布はない。
 藍染の風呂敷を何年も使うと、色のあせ方に普段の使い方が表れるように、布には持ち主の暮らしが映し出されている。リケッツさんは「人と藍との関わりを表現したかった」と話す。
 高校時代に奈良県に短期留学し、日本文化に引かれた。藍への興味が生まれたのは20代の頃だ。
 

第27回国民文化祭・とくしま2012でリケッツさんが企画監修した「I am 藍 We are 藍」。全国各地の染師45人が、阿波藍で布を一番感動する色に染め、徳島市の万代中央ふ頭倉庫に展示した。今も昔も全国で重宝される阿波藍の歴史を感じられる作品だ。

奈良県五條市の高校にALT(外国語指導助手)として赴任していた当時、高校の暗室でしばしば写真を現像した。ある時、下水処理の設備がなく、写真の薬品がそのまま流されていく様子を見て気付いた。「美しい写真を生むために、美しい環境を汚している。自然と協調したものづくりができないだろうか」
 程なくして、草木染めをする人たちから、「藍染というものがある」と教わる。合成藍は石油を原料とするが、伝統的な藍染はタデアイから色を取り出す。たまたま訪れた大阪日本民芸館で、絞り染めの第一人者とされる片野元彦(1899―1975年)の展示会を見て、「自分がやりたいのはこれだ」とピンときた。展示会の最後に「蒅の産地は徳島」と説明があり、初めて徳島を意識した。

 上板町の藍師・新居修さんに蒅作りを、続いて徳島市の染師・故古庄理一郎さんに染めを、1年ずつ学んだ。栽培するときも、染めのために藍建てをするときも、藍は人間の都合に合わせてくれない。「人間が藍を作るのではなく、人間が藍とともに作っている」という感覚を知った。
 

インスタレーション「藍のけしき」(徳島県など主催) 

自然と人間との調和、藍をめでてきた世界の人とのつながり、蒅作りや染めを続けてきた過去との連続性―。「蒅が生む藍色は、いろんなことを教えてくれる。みんなにも気付いてもらいたい」。そんな思いで作家活動を続けている。

深化する藍

  1. 藍切り拓く BUAISOU「土から色を作りたい」
  2. 藍が結ぶ世界
  3. ハンガリーと日本 東西の文化受け継ぎ
  4. 時間をかけ機織り 作品に藍の命を与える
  5. ここだけのこだわり服 「かわいさ」「かっこよさ」求める
  6. 世紀を超え残る色を 地域の人に恩返ししたい
  7. キルギスで「藍建て」指導 イシククリブルー発信へ
  8. 藍で彩る日常
  9. 藍染をしよう