山川秀峰「安倍野」(1928年、絹本着色、培広庵コレクション)

 キキョウやオミナエシなどが茂る秋の野を行く女性。クズの葉が施された着物の裾が、地面に敷き詰められているかのように広がっている。傍らに寄り添うのは2匹の白ギツネ。女性がつえを手にしているのは、長い旅に出る暗示だろうか。

 時は平安時代。和泉の国(現在の大阪府和泉市)の信太の森で、一匹の白ギツネが狩りに追われて傷ついたところを安倍保名に助けられた。その白ギツネは、クズの葉という名の女性に化身し、保名との間に子供をもうけた。

 この子供が後の陰陽師、安倍晴明。やがて数年たち、クズの葉は正体が白ギツネであることが知れてしまったため、信太の森へと消えていった。

 安倍晴明伝説を題材にした歌舞伎や浄瑠璃の作品「蘆屋道満大内鑑」のように、今も語り継がれている伝説の一場面を描いたのが、この「安倍野」だ。

 表情は冷静に見えるが、諦めと同時に幼子を残していく母の後ろ髪を引かれるような心残りが、その視線と立ち姿に込められているようだ。

 着物の裾は背景の金箔が透けて見えるほどで、人間の姿が消えていくはかなさを感じる。山川秀峰は、この作品によって第9回帝展(帝国美術院美術展覧会)で特選を受賞した。(県立近代美術館学芸員・友井伸一)  =おわり

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 企画展「美人画の雪月花―四季とくらし」は9月1日まで。和装(着物、浴衣、阿波踊り衣装)で訪れると前売り料金で入館できる。

「美人画の雪月花-四季とくらし 培広庵コレクションを中心に」展