大きな三日月の前立てをつけた戦国武将・伊達政宗の兜(かぶと)。全て彫刻刀による手作業で仕上げた木彫りの一品だ。機械を使わず、製作に1カ月ほどかかる。価格は7万7760円からで10万円前後が売れ筋だという。

 兜を制作、販売しているのは徳島市末広の伊川彫刻店。住宅街の路地裏の一角にある小さな工房だ。彫刻刀を振るう伊川昌宏さんは、1932年創業の同社の3代目。高校卒業後18歳で修業のため京仏具伝統工芸師のもとへ。6年後に徳島に帰郷し父から仏壇彫刻の指導を受けながら家業を継いだ。今は従業員2人とともに、木彫りの兜や五月人形、ひな人形のほか靴べらやペーパーナイフといった雑貨を手がけている。

 

 木彫りの兜を作り始めたのは2003年頃。当時、帰郷して家業を継いだものの、仏壇業界の衰退とともに注文は減る一方だった。事業継続のために取り組んだのがインターネット販売で、仕事の幅を広げるために雑貨や日用品の商品開発に取り組んだ。その頃に伊川さんに長男が誕生し、記念に作ったのが木彫りの兜。ホームページ(HP)に掲載したところ「欲しい」と好評になり、商品化した。それが今や売り上げの6割を占める主力商品に。オーダーメードも受け付けており「本多忠勝や明智光秀の兜の注文もありました」と伊川さん。売り上げを伸ばそうと、首都圏の産婦人科200軒ほどに兜の売り込みをかけるという。

 新商品で成功したこともあり、次の商品の開発にも余念がない。展示会にも積極的に出品しており「いろいろ作ってみて展示会で意見を聞き、改良をする。駄目でも無駄にならない」と語る。

 

 その中の一つが「木彫りのお札立て」(16200円から)。ヒノキとクスノキの2種類を材料に、形は4種類。お札を挟んだり立てたりできるよう客の好みで選択できるようにしている。

 

 工房では、広い机で彫刻刀を手に黙々と削る。使用する彫刻刀は粗彫り用が50本、仕上げ用は200本にもなる。量産する物は、紙や木で型を作る。それを素材に当て下絵を付ける。糸のこぎりで輪郭を切った後、伊川さんが手彫りする。塗装が必要な物はオイルか浸透性のあるウレタンで仕上げている。削りや切断など機械を使用する部門を担当している板谷里美さんは、「きれいに仕上がったときは達成感を感じる。物づくりが好き」と笑顔を見せる。伊川さんは「新たな若い従業員も雇いたい。技術を習得するのに最低10年はかかる。徳島の木工技術を伝えていきたい」と話した。