またしても、談合事件が起きた。
 
 今度の舞台は、国の巨額融資が投入された「国家プロジェクト」であるリニア中央新幹線の工事だ。
 
 大手ゼネコン4社が事前に協議し受注予定業者を決めていたとして、東京地検特捜部が独禁法違反(不当な取引制限)容疑で、大成建設の元常務執行役員と鹿島の部長を逮捕した。
 
 2人は2014~15年に、大林組と清水建設の担当者らと共謀し、JR東海が発注する品川駅と名古屋駅の工事の受注予定業者を決めるなど、競争を制限した疑いが持たれている。
 
 事実なら看過できない。検察は徹底した捜査のメスを入れ、全容解明を急いでもらいたい。
 
 国がリニア中央新幹線の着工を認可した14年ごろから、大手ゼネコンの担当者は、情報交換のための会合を持っていた。特捜部が強制捜査に乗り出す直前の昨年11月下旬まで開かれていたようだ。
 
 大林組と清水建設は、競合する会社の担当者同士が集まっていたこと自体に問題があると判断した。特捜部に対して談合を認めるとともに、独禁法の課徴金減免制度に基づき公正取引委員会に不正を自主申告した。
 
 特捜部は大林組元副社長と清水建設元専務執行役員を、独禁法違反の罪で在宅起訴する方針だ。
 
 公共事業に多い独禁法違反容疑が、民間企業の発注工事に適用されるのは珍しい。談合根絶に向けた検察の強い決意の表れだろう。
 
 ゼネコン業界は05年末、相次ぐ事件の摘発を受けて「談合決別宣言」を出した。談合の窓口となった社員を人事異動で一新したほか、独禁法を順守するための研修体制も整備した。
 
 それが形だけのものだったかどうかは、事件の捜査を通じて明らかになろう。
 
 東京、名古屋、大阪を結ぶリニア中央新幹線は、総工費9兆円に上る巨大事業だ。大阪までの全線開業は45年の予定だったが、国から3兆円の財政投融資が投入され、最大で8年間の前倒しを目指している。
 
 難工事ができる技術力を持っているゼネコンにとっては、またとないビジネスチャンスだ。
 
 だが、業者間で調整して利益を分け合えば、工事のコストは増すばかりだ。発注者はもちろん、運賃を支払う国民の負担増を招く。ゼネコンはあしき慣行を今度こそ捨て去り、襟を正すべきである。
 
 リニア中央新幹線には、東海道新幹線の老朽化に備えるだけでなく、南海トラフ巨大地震など災害時のバイパスとしての役割も期待される。
 
 建設事業を円滑に進めるためには、沿線自治体や国民の理解が欠かせない。
 
 ゼネコンが法令を守らなければ、事業への逆風が強まるのは必至だ。リニアへの信頼を損なうことは許されない。