被災者の生活を支える産業は、少しずつ元の姿を取り戻しつつある。

 再生にはまだ遠いが、そこには地域を愛し、生業に誇りを持つ人たちの地道な取り組みがある。これからも続く復興への営みを、できる限り支援していきたい。

 被災地の基幹産業は農林水産業である。津波がもたらしたがれきや海水による塩害、地盤沈下などで営農できなくなった農地は、東北3県で計約2万ヘクタールに上る。

 このうち、岩手県は91%、宮城県では98%で生産が可能になった。

 対照的に、遅れが目立つのが東京電力福島第1原発事故が起きた福島県だ。被災した農地のうち、回復したのは59%にとどまっている。原発事故の被害がいかに厳しいかを表していよう。

 漁業でも同様の傾向が見られる。水揚げ機能が完全に戻った漁港は福島県が100%と、岩手県の94%、宮城県の76%より高いものの、水産市場の再開が遅れている。

 岩手、宮城両県では市場の全てが復活したのに対し、福島県は12施設のうち4施設しか戻っていない。水産加工施設も再開できたのは95%と、まだ時間がかかりそうだ。

 農漁業の再生を阻んでいるのが、放射能汚染に対する根強い風評である。

 福島県の農産物は、厳しい検査を経て出荷されている。国の基準値を超えるケースは年々減り、「全量全袋検査」を実施しているコメは2015年産米以降、抜き取り調査の野菜・果物は13年度から、基準値超えがなくなった。

 魚種や海域を絞って試験操業している漁業は、より厳格な独自基準を設けた。15年から基準値を超えた例はない。

 にもかかわらず、大幅に低下した価格は事故前の水準に届いていない。特産のモモは全国平均より約2割も安く、品目によっては、流通段階で「買いたたき」されているという指摘もある。

 東京大の特任准教授が17年に行った全国調査によると、福島県産品を積極的に避ける人は県外で19・8%と、13年に比べて8ポイント余り減った。一方、県産米の全量全袋検査を知っている人は県外で40・8%と、半数に満たなかった。

 風評の払拭(ふっしょく)へ、国や自治体、生産者は安全性をもっと周知する必要がある。消費者も、デマや不確かな情報に惑わされないようにすることが何より大切だ。

 岩手、宮城、福島3県の国立大は、農林水産業の活性化や原発事故の影響解明に力を入れている。宮城県石巻市では、再建された種苗生産施設でアワビの稚貝飼育を本格的に再開した。塩害を乗り越え、土作りからやり直して規模を広げた農家もある。

 被災地の人たちが心配するのは、大震災が忘れられ、風化してしまうことだという。再生への歩みに目を向け続けなければならない。