観光地として名高い神奈川県の湘南に、本場徳島の正調阿波踊りを志す踊り手たちがいる。藤沢市を拠点に活動する湘南で唯一の阿波踊り連「湘南なぎさ連」だ。「湘南に阿波踊りを」という熱い思いを胸に、腕を磨く”天水“たちの今を紹介しよう。

写真を拡大 辻の盆の本番前、湘南の海をバックに踊る湘南なぎさ連=神奈川県藤沢市の県立辻堂海浜公園

 梅雨の切れ目の7月21日、藤沢市の神奈川県立辻堂海浜公園で開かれた「第13回辻堂かいひん盆踊り 辻の盆」で、湘南なぎさ連が踊り始めた。

 「ヤットサー、ヤットサー」。鉦、太鼓、三味線、笛がぴったりと呼吸を合わせて、調子のよい2拍子のリズムを刻む。女踊りの軽やかでキレがある足さばきと、しなやかな手の動きが波のような動きを見せる。

 湘南の地に、徳島の正調阿波踊りが息づいている。

 キレよくうちわをさばく「うちわ踊り」と、豪快に飛び跳ねながら踊る「提灯踊り」が、詰め掛けた観客を興奮の渦に引き込む。

 一転、スローモーションのような動きで、女踊りと男踊りが掛け合い、風情豊かな阿波踊りの表情を演出すると、観客たちは引き込まれるように見入った。

 正調阿波踊りを志す理由について伊藤弘美連長(36)=藤沢市大庭、主婦=は「本場徳島で受け継がれてきた伝統的な阿波踊りに感銘を受けた。時代の流れに左右されることなく、2拍子の鳴り物と踊りの調和を大切にして表現したい」と語る。

 美しい藤色と藍色が基調の浴衣は、湘南の海、藤沢市の花のフジ、徳島の藍にちなんだデザインだ。女踊りの浴衣の袖の寄せては返す波の模様が風に揺れる。

 「しなよく踊るたもとはまるで 潮風揺れる藤の花 阿波のぞめきに けだしも揺れる寄せては返す波のように ヤットサー」。優雅な女踊りを見せる踊り手の掛け声が、湘南で正調を目指す心意気を歌い上げているようだった。

綿貫愛佳さん
渡邉樹さん

 女踊りの綿貫愛佳さん(47)=埼玉県三芳町、パート=は阿波踊りの魅力について「いつもと違う自分になれるし、見ている人に感動を与えられる」と話す。提灯踊りの渡邉樹さん(40)=神奈川県大和市、会社員=は「正調の音に魅力を感じて連に入った。奥が深く、なかなか自分の目指す踊りには到達できないが、毎年、徳島の阿波踊りを見に行き、有名連に一歩でも近づけるよう練習している」と意欲的だ。

 「踊りは湘南 なぎさの踊りだ」。男踊りの子どもたちの掛け声も力強い。

 「それでは、皆さんも一緒に踊りましょう」との呼び掛けに、見物していた大勢の子どもたちが手を上げて、足を弾ませながら踊り始めた。笑顔いっぱいの楽しそうなその姿は、湘南に根を広げ始めた正調阿波踊りの未来を物語っていた。

 なぎさ連は15日、徳島市の阿波踊りに参加し、藍場浜演舞場と新町橋東おどり広場で踊る。16日には、つるぎ町のさだみつ阿波踊り大会にも参加する予定だ。

湘南なぎさ連 2012年3月創立。藤沢市の湘南台文化センターが練習拠点で、連員は4歳から60歳代まで70人。東京・高円寺の阿波おどりなど関東の祭りやイベントを中心に踊っている。

 

県人3人 活躍

湘南なぎさ連には3人の徳島県人がいる。

▼▼披露の場が多くうれしい

上野優子さん

 徳島市国府町出身の上野優子さん(39)=横浜市戸塚区、会社員=は藤沢市民まつりで、なぎさ連の踊りを見て2015年に入連した。高校から大学まで「天保連」の一員として徳島市の阿波踊りに参加していた。「関東には東京の高円寺や大和阿波おどりなど、正調阿波踊りを見てもらう機会がたくさんある。徳島県出身者としてすごくうれしいし、やりがいがある」と言う。

 

 

▼▼徳島とつながりたくて

ロビンソン由加さん

 板野町出身で14年に入連したロビンソン由加さん(43)=鎌倉市鎌倉山、主婦=は「英国人と結婚して神奈川で住んでおり、子どもが徳島に関係なくなるのが寂しいと思って、阿波踊りの連に入った。5歳の長男が連で踊っているので、生活の一部になった。徳島に帰ると阿波おどり会館で一緒に踊る」と語る。

 

 

▼▼踊り引き立てる笛目標

梶本沙織さん

 梶本沙織さん(30)=藤沢市藤沢、会社員=は鳴門市大麻町出身で13年に入連した。高校時代から「うずき連」で女踊りをしていたが、なぎさ連では長く阿波踊りを続けようと思い、笛を志望。「徳島の人のようにうまく抑揚をつけて、踊りをきれいに見せるような音を奏でるのは難しい」と話し、練習に余念がない。

 

 

湘南らしさ見せたい

15日、徳島市で踊り込み

 湘南なぎさ連は、神奈川県大和市の「大和阿波おどり」の連に所属していた藤沢市の踊り手たちが2012年3月に結成した。

廣田健二会長
伊藤弘美連長

 初代連長で、締太鼓担当の廣田健二会長(64)=藤沢市高倉、団体職員=は「湘南で初めての連を立ち上げ、きちんとした2拍子の正調阿波踊りを目指そうと思った」と振り返る。
 なぎさ連は16年、徳島市の阿波踊りに初めて参加した。伊藤弘美連長は「街全体の雰囲気に圧倒されながらも、なぎさ連の高張り提灯を掲げ、創連4年目で一人一人が当時のベストを出した。連全体が一致団結して踊り切った達成感は忘れられない」と感慨深げだ。15日の2度目の徳島市の阿波踊り参加を前に、廣田会長は「今回も湘南らしい踊りを徳島の方に見ていただきたい」と言う。
 連は結成8年目と歴史は浅いが、正調阿波踊りに魅せられた入連者が相次いでいる。伊藤連長は「湘南には、阿波踊りを見たことがない人がたくさんいる。日本の伝統芸能である阿波踊りの素晴らしさを発信し、湘南に伝えていきたい」と力を込めた。