殺人事件に臭いで迫る
東みよし町出身のミステリー小説家喜多喜久さん(39)=本名・哲也、堺市=が、最新作「死香(しこう)探偵」(中公文庫、691円)を出版した。代表作「化学探偵Mr.キュリー」(同)は、シリーズ7巻までで累計50万部を発行する大ヒットとなっており、人気作家としての地位を確立している。
「死香探偵」は、死の香りをかぎ分けられるという特異体質を持った青年桜庭潤平が主人公。分析フェチのイケメン准教授風間由人の助手になり、殺人現場に残された臭いを手掛かりに事件を解決していく。短編4話が収録されている。
2017年3月まで大手製薬会社で研究員をしていた喜多さんは、化学や薬学の知識を生かして謎解きをするミステリー小説を手掛けてきた。
「犯罪や殺人事件を直接扱った小説は、今回が初めて。血生臭さを前面に出したくなかったので、マイルドに仕上げた」と言う。
ユーモアがある展開と読みやすい文章で、読者を作品の世界に引き込む。テーマは「死者へのリスペクト(敬意)」。副題「尊き死たちは気高く香る」の言葉通り、死を丁寧に扱った。
東京大大学院薬学系研究科修了。10年「ラブ・ケミストリー」で「このミステリーがすごい!」大賞の優秀賞を受賞。翌年、同名小説で作家デビューした。
化学オタクの大学准教授沖野春彦が、庶務課の七瀬舞衣に振り回されつつも事件を解決する「化学探偵」は、13年の第1巻発売以来、愛読者を獲得し、喜多さんの作品の柱になった。
「探偵と助手というオーソドックスな設定と、私が専門とする化学を応用した謎解き、ミキワカコさんの表紙イラストがうまくかみ合って、ヒットにつながった。息の長いシリーズにしたい」
ラブコメディー的要素を盛り込んだ「化学探偵」とは違い、「死香探偵」は中性的な魅力を持った青年を主人公にして新たな世界を創り出している。
加茂小時代には、江戸川乱歩やコナン・ドイルのシリーズを読みあさり、三加茂中ではライトノベルの「スレイヤーズ」に夢中になった。少年漫画も大好きで、ラブコメ調の展開やファンタジー的な要素は、その頃蓄積された。
研究員としての年齢的な分岐点とされる40歳を前に、専業作家として歩む決断をした。「読者を楽しませるのが一番。あっと言わせるけれど、違和感のある結末ではなく、自然に驚かせることができる作品を書き続けたい」。