終戦から3年がたった8月、NHKラジオの「のど自慢」で、一人の青年が審査員の知らない曲を披露した。望郷の詩に素朴なメロディーが合わさり、万感を込めた歌い方が、聞く者の心を揺さぶった。青年が「シベリア抑留時代に歌った」と紹介した、その曲は作詞、作曲者不明のまま大ヒットする

 そうとは知らず、生みの親の吉田正さんがシベリアから帰国。身を寄せる神奈川県の姉宅のラジオから聞き覚えのある曲が流れてきた。<今日も暮れゆく異国の丘に/友よ辛かろ切なかろ>。「異国の丘」である

 吉田さんの回想によると、抑留前、旧満州で入院中に作った「昨日も今日も」が原曲。軍隊生活の厳しさを馬に託し、「馬よ辛かろ切なかろ」だった

 その歌詞を変えたのが増田幸治さん。シベリア抑留中、旧満州で耳にした原曲に新たな命を吹き込んだ。吉田さんとは別の収容所にいて面識もなく生まれた曲は、凍土の大地で、どれほど日本人の生きるともしびとなったか

 スターリンが旧日本兵抑留の極秘指令を出したのは終戦の8日後。57万5千人が強制労働を課され、5万5千人が異国の土となった

 吉田さんは大作曲家となり、増田さんは福島県の銀行に勤め、2人とも鬼籍に入っている。元抑留者は少なくなったが、この曲を聞くと、異国での労苦と無念が胸に迫る。