7月の参院選では、10代の投票率の低さが目立ちました。過去の国政選挙を振り返ってみると、20代の投票率は全体を20ポイントほど下回る傾向が続いています。ただでさえ若い世代の人口割合が低い日本。このままでは、若い人の声が政治に届かなくなるばかりでは? 社会や政治について発言する20代の女性に考えを聞きました。

 「私はこう思う」を大切に

 中村奈津子さん(28) 自然スクールTOEC職員(阿南市)

「今の社会は『受け身』であることが多い」と話す中村さん=阿南市のTOEC

 「知識がない、強い意志がないから政治のことは日常話しにくい。私もそうでした。でも自分の暮らしにつながる。今日はみなさんで考えたい」

 6月に徳島市のアスティとくしまで開かれた「辺野古」県民投票の会の元山仁士郎代表による講演会の冒頭で、来場者に呼び掛けた。講演会を主催した「沖縄県民投票を勝手に応援する会(OKOK)」のメンバーだ。

 埼玉県生まれ。子どもの頃から、自分で納得したことは行動に移すタイプだった。「家族で1人だけ、ごみの分別をしたりしてましたね」。教員を目指して同県内の大学に進学。19歳の時に東日本大震災が起きた。1人で被災地にボランティアにも行ったし、国会前で行われていた反原発のデモにも参加した。

 しかし、デモからは足が遠のいた。「『戦う』という空気にあまりなじめなかったんですね」と振り返る。「自分の声だけでは何も変わらないんじゃないか」。そんな思いも抱いた。

 考えが変わったのは、OKOKの呼び掛け人でもある伊勢達郎さんが代表を務める自然スクールTOEC(阿南市)で、自然教育を志す人向けのセミナーを受けてから。

 吉野川第十堰の可動堰化の賛否を問う住民投票で、伊勢さんら市民グループが一軒一軒家を回って署名を集め、可動堰計画を中止させた経験を聞いた。「『何もできない』なんて言ってる場合じゃないと思いました」。大学卒業後、TOECに就職し、幼稚園スタッフとして働く。

 7月の参院選時には、徳島市のかちどき橋上でプラカードを持って投票を呼び掛けた。「1回やるだけじゃだめですね。続けていかないと」と自分に言い聞かせ、今後も社会に関わっていく。

 今の社会については「受け身で過ごすことが多くて、『私はこう思う』『私はこう行動する』と主体的になる機会が少ないように思う」。「話す」ことが、主体的な活動の第一歩だと考え、「普通の人が集まって続けられる勉強会のような場をつくりたい」と力を込める。

 「忖度」という言葉が広がり、議論自体を避ける傾向も目立つ現代だが、「何か言ってぐちゃぐちゃっとなっても、また(体制を)つくり直す。そういう感覚を大事にしたい」と語った。

 

 「余裕のある社会」が必要

 砂川京香さん(22) 高知大4年(鳴門市出身)

「いろんなことを考える余裕がある社会になってほしい」と話す砂川さん=高知大

 平和と民主主義のための高知県学生の会「PEDAL」のメンバーとして、7月の参院選では野党統一候補の松本顕治さんを支援した。無料通信アプリのLINE(ライン)やツイッターの公式アカウントで情報を発信する広報を担当。学内でも、学生たちに候補者の意見の違いを整理したビラなどを配布し、「選挙に行こう」と呼び掛けた。

 松本さんを支持する理由の一つは、選択的夫婦別姓導入や性的少数者の権利擁護を公約に掲げ、「多様性を大切にしているところ」と話す。

 人文社会科学部で憲法ゼミに所属しており、選択的夫婦別姓は卒論のテーマでもある。高校生のとき、姓ではなく、「京香」という名前の印鑑が自宅にあるのに気付いた。弟には名前印はない。親に理由を尋ねると、「結婚したら姓が変わるから」と言われた。「自分はこの姓で一生生きるつもりなのに。めちゃくちゃ泣きました」

 大学進学で実家を離れるまで、父親とニュースを見ながらああでもない、こうでもないと会話するのが日課だった。「大学ではみな政治の話をするだろう」。そう思っていたが、違った。「ファッションの話と同じ感覚で『消費税って上がるらしいよね』と言ってものってもらえない」

 「PEDAL」に入ったのは4年生になってから。安保法案に反対するため2015年に結成されたが、18年度末に創立メンバーが全員卒業した。解散の危機にあると聞き、他の新規メンバー3人とともに再始動させた。参院選で松本さんは落選したが、今後も自分たちの望む政策を各政党に伝えるなどの活動をしていく予定だ。

 「個人的なことは政治的なこと」。1960年代、70年代のフェミニズムのスローガンのように、「私」を起点に政治を語る。「地方国立大の学生」という立場から、他の先進国と比べて突出して自己負担の割合が高い日本の高等教育費や、都市と地方の賃金格差などの問題を実感している。

 「他国の状況を知らないと、『国公立大は安い』と思ってしまうんですよね」と言い、必要なのは、考え、話すことができる「余裕のある社会」と指摘する。その上で「今の日本には、そんな余裕、大学生にも働く人にもないですよね」と問い掛けた。

 

 低い若年層の投票率

 7月の参院選では18歳、19歳の投票率(抽出調査)がそれぞれ34・68%、28・05%。10代の平均は31・33%で、前回(2016年)の46・78%(全数調査)を15ポイント余り下回った。全体の投票率は48・80、過去最低だった1995年の44・52%に次ぐ低水準だった。総務省による衆参院選の年代別投票率分析(抽出調査)によると、ここ30年ほど、20代の投票率は全体より20ポイント前後低い傾向が続く。

 

 

 

 

 

 

 政治参加進めるために

 民主主義の重要性 教育を

 低迷する若い世代の投票率。若年層が抱える課題の解決が後回しにされる懸念だけでなく、こうした層が年を重ねれば、全体の投票率が低下しかねない。若年層の政治参加はどうしたら進むのか。

 四国大の本田利広教授(地方行政)は、参院選に合わせてゼミ生に合区問題を考える主権者教育を行った。「人口減少が自分とどう関わるか、話せば理解するし、興味も持つ」と言う。ただ、働き掛ける人がいなければ、関心が喚起されないままだ。メディアの多様化により「選挙報道がされる新聞も読まない。学業のほかアルバイトや部活でゆとりがない」と現状を憂う。

 まちづくりグループ・徳島活性化委員会の内藤佐和子代表は投票日を前に、建築などを学ぶ学生を対象にして選挙についての勉強会を徳島市内で開いた。同市の新町西地区再開発や音楽ホール新設計画を取り上げ、まちづくりがいかに政治と関連しているかを説明した。

 それぞれが興味を持つことと政治を関連付けることが大切だとし、「主権者教育と学科の教育を切り分けず、一体として教えるべきだ」と提案する。

 2016年から18歳に選挙年齢が引き下げられ、高校でも主権者教育が展開されているものの、ネックになるのが教育基本法が学校に求める「政治的中立性」だ。

 徳島大の饗場和彦教授(国際政治学)は「この規定が現場の消極的中立性を招き、政治的事柄に関心を持ってはいけないという認識になっている」とみる。小学校から「教員も、児童生徒も政治的意見を自由に言える。そういう教育をしないと、18歳になって突然主権者教育をしてもうまくいかない」と話す。

 ドイツでは、ナチス政権への反省から学校で積極的な政治教育を行う。対立する多様な意見を提示し、教員が自分の意見と異なる生徒の意見を尊重するのを前提に、教員も自分の意見を言うことが勧められている。

 饗場教授は「これまでの戦争でみられるように、国家権力を前にすると市民はとても脆弱な存在」と強調。選挙の仕組みだけでなく「なぜ民主主義や投票が市民にとって大事なのかをきちんと教える必要がある」と指摘した。

 

 

 中村奈津子さんは「受け身で過ごすことが多い」と今の社会を評します。確かに、学校では服装から髪型まで細かいルールに従うことが求められます。選挙においてすら「頼まれたので」と投票する候補者を決める人もいます。

 徳島大に8月まで留学していたクロアチア人のシローラ・アナマリアさん(27)、シテファンチッチ・イレーナさん(27)にも、日本の低投票率の状況について意見を聞きました。

 「普段から自分の意見をあまり言わない」という日本人の印象を踏まえ、「それが投票率の低さにもつながっているのでは」と話していました。二人にとっては、家族や友人と政治の話をするのは日常で、デモにも参加するそうです。

 中村さん、砂川京香さんとも、政治や社会について語る人が近くにいたことが、今の活動につながっています。問われているのは、若者でなく、その上の世代のような気がします。