終戦後の1950(昭和25)年というから、日本はいまだ食糧難の時代。日和佐中学の教師と生徒が、肉をとるため殺されたアカウミガメの死がいを、美波町の大浜海岸で見つけた。生徒たちは涙ながらに訴えたという。「ウミガメの保護を日本中に呼び掛けよう」

 世界に先駆けて始まった調査、研究活動はアカウミガメの学名「カレッタ」をいただく今の日和佐うみがめ博物館へと続く。館の主でもある69歳の「浜太郎」は、この時、中学生らがふ化させた1匹だ

 カレッタは今夏、85年の開館以来、初めての人工産卵に成功した。浜太郎は一方の立役者である。この年齢にして、と驚くばかりだが、人間に比べて大人になるのが遅く、200年以上生きるともされるウミガメのこと、青春まっただ中なのかもしれない

 長年のプール暮らしで、雌を抱きとめる四肢の爪がすり減って、交尾できなかったらしい。カレッタの学芸員の発案で装着した、強化プラスチックの人工爪が奏功した

 その爪を見てやろうと、館に足を運んだ。プールで浜太郎を探すと、水底でじっと沈思黙考していた。少なくとも、そう見えた

 広いとは言えないプールで、これから何十年、観覧者を迎えるのだろう。地球の環境を傷つけてきた人間は変われるか。水底の哲学者は案外、そんなことを考えているのかも。