峰を渡る風に誘われ、曲がりくねった坂を上ると、あとはもう青空。クマザサの緑広がる三好市の落合峠は標高1520メートル。烏帽子や矢筈といった県内の山好きに愛されてきた山々の登山口ともなっている

 月日は百代の過客にして、行きかふ年もまた旅人なり|。峠にたたずんで、雲の湧き上がるのをしばらく眺める。ついさっき出会った2人連れの登山客の赤と青のリュックがはるか遠く、赤と青の点になり揺れていた

 見渡せば、山また山。山容豊かに、徳島の奥の細道、漂泊、さすらいの旅。国の重要伝統的建造物群保存地区に指定されている落合集落を目がけて峠を下りれば山道の脇、多くの石仏が並んでいた

 時が施したコケの化粧が絶妙だ。道中の安全と、人の幸せを願って江戸後期、集落の人たちが置いた。道が付け替えられ、それに伴い現在の場所に移転したという。行き交ったのは土地に根差した人々

 屏風のような山を越え、ようやくたどり着く祖谷にはかつて、椀や盆の製作をなりわいとする人々が多数暮らしていた。落合の名は、木地師発祥の地とされる滋賀県に残る文書にも見える。木製品は峠を経由して半田に入り、塗師と出合って半田漆器ともなった

 山偏に上と下で峠。じっくりと見ればこの国字、かつて往来した人々の声が、隙間から流れ出てきそうである。