旅情ミステリー作家で知られた内田康夫さんは、連載の締め切りに追われ、ミスを連発した。死んだはずの人物を再登場させたり、A誌とB誌で人物の名前を取り違えたり。締め切りはかなりのプレッシャーだったようだ

 『〆切本』(左右社)には、そんな作家のエピソードが満載されている。「かんにんしてくれ給へ どうしても書けないんだ」と泣き言の手紙を妻に届けさせる吉川英治さん、書く気が起きず「正直な話、私は毎日、イヤイヤながら仕事をしているのである」と開き直る遠藤周作さん...

 大作家ならずとも何かの期限が迫り、焦ってあたふたした経験は誰にもあろう。いま身につまされているのは、夏休みが終わる子どもたちかもしれない

 遊びに夢中になったツケが回り、たまりにたまった宿題と格闘しているのではないか。県内では夏休み期間を短縮する小中学校が増えており、うらめしく思う子も多かろう

 『〆切本』にはきまじめな作家も登場する。吉村昭さんは締め切りに遅れたことがなかった。小学生時代は、夏休みの宿題を最初の5日で仕上げ、残りの日は「日記を書くだけでのんびりと過した」

 今更そんな例を出されても、と嘆く子に元気の出る言葉を。「発想の最大原動力は原稿の締め切りである」(山田風太郎)。切羽詰まると思わぬ力が出るものだ。