子どもたちと触れ合いながら育児アドバイスを続ける寒川さん=徳島市籠屋町商店街の「子育てほっとスペース すきっぷ」

 児童心理学者で徳島文理大名誉教授の寒川伊佐男さん=徳島市南前川町4=が90歳を迎えた。今なお現役の子育てアドバイザーとして、自身のひ孫と同い年くらいの子どもたちと触れ合いながら育児支援を続けている。これまでの経緯や、今の親たちに伝えたいことを聞いた。

 22歳の時、県職員として児童相談所に就職した。そこから子どもとの付き合いが始まりおよそ70年。寒川さんの周りにはいつも子どもがいて、その時、その時代の子どもたちを見つめながら過ごしてきた。「子どもがかわいくてかわいくて。子どもと遊べるのが何よりうれしいんです」と顔をほころばせる。

 この道に進むきっかけは1950年、立命館大3年生で心理学を専攻していた寒川さんが徳島新聞に掲載された記事を目にしたことだった。4歳の知的障害児を持つ母親が、子どもを木にくくりつけて仕事をしているというもの。当時知的障害児のための施設や学校はなく、母親に他の手段はなかった。その後、状況を知った人々が募金活動を始め、その活動が行政を動かして県立あさひ学園ができた。一連の報道を目の当たりにし「こういう子どもたちを助ける仕事をしよう」と決意した。

 児童相談所に心理職として就職した後、徳島県で児童心理学の第一人者として子どもたちへの支援にあたった。当時知的障害児への支援や対応はまだまだ整備されていなかった中、自閉症や発達に問題のある子どもたちと向き合い、支援する方法を模索した。そのころに寒川さんが受け持った子どもたちは、今はもう高齢者になる。

 その後はあさひ学園園長、児童相談所所長などを歴任。アメリカやイギリスに渡り、自閉症児や発達障害児に関する研修も受けた。県職員を早期退職し、「やはり現場で子どもと関わりたい」と徳島文理大付属幼稚園の園長を同大教授と兼務して20年以上務めた。

 現在も月2回、徳島市籠屋町の「子育てほっとスペース すきっぷ」で育児講座のアドバイザーとして出向く。子どもたちへのお決まりのあいさつは「じいじが来たよ。パッ、パッ、パッ、パッ、ンマ、ンマ、ンマ、ンマー」。子どもはぽかんと口を開けて寒川さんを見つめたり、驚いて母親にしがみついたり。そんな子どもの様子にも全く動じず「人見知りは大賛成です」とにっこり笑う。

 長年の研究と経験から親たちに伝えたいのは、親と子の愛着関係を形成することの大切さ。特に1、2歳ごろまでが重要だと言い「子どもにとって、『ママは絶対に自分を裏切らない』『パパは自分を愛してくれている』という自信が何よりも大切。その子の人生を大きく左右する」と力を込める。最近の親は知的な学習を早くから求めすぎる傾向にあると指摘し「それよりも、赤ちゃんや幼児が出す意味のない喃語にもきちんと反応するなど、『あなたに注目しているんだよ』という姿勢を見せてあげて」と呼び掛ける。

 自身のことを「学者ではなく、実践者」と話す。論文やデータも大切だが、それ以上に目の前の子どもや母親たちと向き合う中で、そこから学んだり親子の悩みを解決できたりすることが多いという。

 楽しみは、なんと言っても子どもたちと触れ合うこと。子どもは一人一人違い、個性的で、成長とともにどんどん変わっていく。「元気な限り、子どもたちと関わっていきたいなあ」。