徳島の婚礼ではおなじみの「花嫁菓子」。紅白の色合いと優しい食感が幸せを届けてくれる

花嫁菓子を焼く河原恭司さん=徳島市北前川町5の河原製菓所

 「お嫁さんのお菓子」と呼ばれ、徳島の婚礼に欠かせない紅白の「ふ焼き」。かつて花嫁があいさつ回りで配り、近所一帯がお祝いムードに包まれたものだ。時代が変わり、昔ながらの光景はほとんど見られなくなったものの、引き出物として変わらず親しまれている。ふんわりした食感と、ほのかな甘みが幸せを運んできてくれる。

 住宅や店舗が軒を連ね、古い町並みの雰囲気を残す徳島市前川地区。徳島健生病院を目指して細い路地に入ると、「花よめ菓子」と書かれたシンプルな看板が目に留まる。

 河原製菓所。ここでは、お盆が明けた20日から、秋のピークに向けて花嫁菓子作りが本格化している。

 店舗の外観はほぼ民家。作業風景はガラス戸越しに見ることができ、通りすがりの人が興味深そうにのぞいていく。注文は1年を通して入るが、天候が良く、婚礼が増える3~4月と10~11月に集中するという。

 菓子作りは午前5時半ごろに始まる。製粉したもち米に、水と砂糖を加えて生地を練る。「もち米は水分をよく吸うものがあったり、吸わないものがあったりする。練りながら加減を考えんといかんのよ」と、2代目の河原忠明さん(81)が明るく説明してくれる。

 紅白2種類の生地を作り、きしめんのように細長く伸ばした後、長さ4センチ、幅1センチの短冊状に切り分ける。

 焼くのは3代目の恭司さん(52)。電熱式の鉄板に生地を30個並べ、すぐにふたの鉄板を下ろす。生地は2枚の鉄板に挟まれる形となり、小判状に広がる。鉄板をガチャガチャと小刻みに上下させるのがポイント。生地がちょうどいい厚さに膨らむよう、調整するための動作だ。

 30秒ほどで焼き上がる。ふたを持ち上げると、紅白の花嫁菓子がずらっと並んだ。機械は40年間現役。「ずっと昔は7枚ずつしか焼けなかった。よく手に豆ができたよ」と忠明さん。

 ざるの上でしばらく冷まし、1枚1枚菓子の裏表に砂糖水を塗る。「冷ますのも微妙な加減があるんです。失敗すると、割れやすくなる」と恭司さんが教えてくれた。

 河原製菓所は1948年ごろ、阿波市出身の祖父・由一さん(故人)がもなか店として開いた。当初は大阪のもなか店に勤めていたが、太平洋戦争を機に帰郷。終戦後、現在の場所にもなか店を構えた。近くの職人にふ焼きの製法を教わり、ラインアップに加えた。

 彼岸のお供え用には形のよく似た「池の月」を作る。花嫁菓子と違うのは、生地に砂糖を入れないこと。その分、池の月は焼いても膨らまないので薄い。

 徳島では、花嫁が嫁ぎ先の近所を回る「初歩き」の習慣があり、集まった子どもらに菓子を配った。特に県南部の漁家では婚礼の規模が大きく、一度に数千枚の注文を受けたことも。

 しかし、時代とともに結婚式を自宅でなくホテルや式場で開くようになり、行事のスタイルも多様化してきた。親と同居しない世帯が増え、近所をあいさつ回りする機会も減っている。徳島市内に10軒ほどあった花嫁菓子の製造業者は数軒になった。

 ただ、披露宴の引き出物としては今も根強い人気がある。河原製菓所では、卸売業者を通じてスーパーや道の駅にも販路を広げており、買い物客が「懐かしい」と手に取っていく。インターネットで知った県外からの問い合わせも増えてきた。

 晴れやかなムードを演出する花嫁菓子。郷土の味覚として変わらず愛されている。