富士山麓にオウム鳴く―。八つの数字列2・2360679を一気に覚える記憶法。掛けると5になる。3月22日が近づくと、なぜか口につく。そう、あれは22日だった。明日で23年になる

 富士山の麓に点在したオウム真理教の施設。その日、警視庁の大捜索が入った。第6サティアンと呼ばれる教祖住居が私の持ち場になった。「君は逃げ足が速そうじゃないか」

 それが理由だった。確かに、そうかもしれない。気休めの防毒マスクをかぶり、トランシーバーを手に警官隊の様子を凝視する。カナリアの鳥かごが、いや応なく目に飛び込む

 2日前の20日、地下鉄サリン事件が起きていた。目前の教団施設でサリンがまかれたら逃げても無駄だろう。異変に気づくこともなく息絶える。でも、とにかく逃げるしかない

 8日後の30日、都内で警察庁長官銃撃事件が起きる日まで第6にいた。富士山麓の大樹林は日本有数の花粉発生源だ。だらだらと流れる鼻水に苦しみ、早春の冷え込みに体を震わせ、教祖逮捕の瞬間を見逃すまいと待った

 阪神・淡路大震災の影響で開催が危ぶまれた選抜高校野球が始まり、四国代表、観音寺中央高の快進撃に励まされた。大震災とオウム。1995年は戦後50年だったが、明日は見えなかった。事件の舞台、上九一色は、後の合併で地図から消えている。