「もてない男子が古里の威信を懸けて闘う姿に注目してほしい」と話す佐川恭一さん=大阪市

 徳島をテーマにした全国公募の掌編小説コンクール「第2回徳島新聞 阿波しらさぎ文学賞」(徳島文学協会、徳島新聞社主催)で、426点の中から大賞の阿波しらさぎ文学賞に輝いた佐川恭一さん(34)=大阪府枚方市、公務員=に、受賞作「踊る阿呆(あほう)」に込めた思いを聞いた。

 今年の春先、テレビで徳島が紹介されている番組を見て驚いた。阿波踊りも初期の頃と現在とでは踊り方がかなり違うという。つまり、時代ごとに進化しているらしい。「これを小説のアイデアに使えないか。そう考えたんです」。着想の発端を明かした。

 受賞作「踊る阿呆」は青春ユーモア小説。生まれて初めての彼女をつくるために若者サークルで奮闘する徳島出身の男子が主人公だ。得意の阿波踊りを武器に宴会で注目を集める主人公は、現代曲に合わせておしゃれに踊るハイブリッド阿波踊りを考案する。米津玄師さんのヒット曲「Lemon」をマイナーチェンジした「すだち」は、絶大な力を発揮した。

 ところが、ライバルが現れる。同じサークルのもてない男子守屋だ。滋賀県出身の彼は、地元の盆踊り「江州音頭」を進化させた江州音頭レボリューションで、ハイブリッド阿波踊りを破り、主役の座を奪い取る。滋賀の有名アーティスト「TMレボリューション」を小道具にした。

 佐川さんは滋賀県出身。実は守屋は自分自身の投影でもあるという。「もてない男子同士が古里の威信を懸けてダンス対決したら面白いかと思って」

 ハイブリッド阿波踊りを、過去のものにしてはならない。危機的状況に追い詰められた主人公は、最高のハイブリッド阿波踊りを開発して再起を期す。自分のためではなく、徳島全土を背負って闘っていることに気付きながら。

 ―見たか! これが徳島だ!

 ゴシックで書かれたせりふが印象的だ。

 そして、最後のダンス対決。ライバルを超えた友情が結ばれる。できるだけ明るいタッチで最後までふざけ切るつもりで書いたという。「2人が理解し合える瞬間の感動と、周囲の冷めた視線のギャップを楽しんで」

 京都大文学部卒。公務員をしながら好きな小説を書き、さまざまなコンクールに応募してきた。2011年には日本文学館出版大賞に輝き、受賞作「終わりなき不在」が書店に並んだ。16年には、群像新人賞で最終候補の一つ手前の4次選考11作品に残った。他にもいくつかの文学賞を受賞した経験がある。

 阿波しらさぎ文学賞への応募は、原稿用紙15枚でどれくらい書けるかという、自分への挑戦でもあった。「面白さが認めてもらえてうれしい」と素直に喜びを表現する。

 大江健三郎や三島由紀夫の文学作品を読むのが好きだ。作風は異なるが、意識して書いた部分もあるという。

 徳島へは10年ほど前に一度訪れたことがあるだけ。友人との四国旅行で祖谷のかずら橋へ立ち寄った。受賞作にも、その経験が反映されている。

 9月8日に徳島市の新聞放送会館で行われるトークイベントで、最終選考委員長の吉村萬壱さんや、ゲスト作家の角田光代さんらに会うのを心待ちにしている。「どんな感想か不安で怖い部分もあるけれど、それ以上にわくわくしている」と笑った。