日本政府は、韓国への輸出規制強化について「元徴用工問題への対抗措置でない」と主張する。この理屈は、国際世論を納得させることができるのだろうか。

 韓国政府が、「政治的な動機による差別的な措置で不当だ」と、世界貿易機関(WTO)に提訴した。7月初めに半導体材料3品目の輸出規制を日本が打ち出したときから「提訴も辞さず」と表明。事態が深刻化する中、十分に想定された動きである。

 迎え撃つ形の日本政府は「安全保障を目的とした輸出管理の見直しにすぎない。WTOのルールにのっとっている」と主張している。

 確かに、自国の輸出管理を厳格にする運用見直しであり、「禁輸」ではない。WTO違反に当たらず、と主張することは可能だ。

 しかし、安全保障上、見過ごせない事例が韓国側にあったとしても、7月初旬を選んで発動したのは、参院選を視野に入れた政治決断である。半導体材料をターゲットにしたのも、韓国経済の「急所」と見極めてのことだ。

 元徴用工判決を巡る韓国側の対応が引き金となったことは、当初から菅義偉官房長官ら政府首脳も認めている。このままWTOを舞台に従来の主張を繰り返せば、問題の本質を覆い隠しているとの疑念を持たれはしないか。

 対立の核心は、元徴用工への日本企業の賠償を命じた韓国最高裁判決と、その後の対応である。規制強化が政治的な対抗措置か否かという、不毛な論戦に時間と労力をかける余裕はない。

 安保上、本当に必要な措置であれば、具体的な事例を明らかにして改善を求めるべきだ。そうでなければ、「政治的な動機」との主張に対抗できないのではないか。

 WTOで結論が出るまで、最短でも1年は要するという。その間、日韓の歩み寄りの動きが止まれば、まず11月22日に軍事情報包括保護協定(GSOMIA)が失効の期限を迎える。

 最高裁判決を受けて差し押さえられた日本企業資産の売却も同時期に始まると予測される。「実害」の発生により、安倍晋三首相が対抗措置に踏み切れば、韓国側も応酬。その結果、最悪の「断交」状態が生まれる恐れがある。

 改造内閣発足の記者会見で首相は「国際法に基づいて韓国側の適切な対応を求めている。韓国には国と国との約束を守っていただきたい」との見解を繰り返した。

 日本側は、1965年の日韓請求権協定に基づいた対応を求めたが、韓国政府は応じなかった。今回の対立の出発点だ。再び、そこに立ち戻り解決の糸口を探るしかない。

 朴槿恵政権時代に交わした日韓慰安婦合意(2015年12月)も事実上、白紙に戻っている。「国同士の約束を守れ」は、国際世論にも受け入れられる理屈だ。外交力を集中し、粘り強く協議を重ねるべきだ。