心と体を深く傷つける性暴力。「♯MeToo」運動などの広がりで実態は少しずつ明らかになっているものの、被害者が声を上げるのは容易ではない。どうすれば女性や子どもがおびえなくてもいい社会にできるのか。連載「性暴力とたたかう」第1部は、沈黙を破った被害者の証言を基に、その本質を探る。

 

 娘の訪問を喜んで、認知症の父が無邪気に体を寄せてくると、今でも嫌悪感で体がこわばる。徳島県内に住む40代の鈴木なおこさん(仮名)は幼少期、この父から性的虐待を受けた。父が暮らす介護施設を訪ねる日は憂鬱で、数日前から気分が落ち込む。

 父は鈴木さんが小学校に上がった頃から、膝の上に乗せては体を触ってくるようになった。服の上から胸の先端をつまんだり、顔をなめ回したり。父が家にいると、不快で気持ち悪い接触行為を毎日のようにされた。

 初めは頭が混乱し、何が起きているのか理解できなかった。「かわいがってくれているだけ」と思うようにした。しかしある時、父に耳元で「もっと触ってほしいか?」とささやかれ、「普通じゃない」と確信した。幼いなりにも性的な接触だと分かり、嫌悪感が募った。

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 家庭は安心できる場所でなくなった。「父にいつ触られるのか」と、常に警戒した。いったん捕まると、「やめて」と言っても聞き入れてもらえない。体格も立場も圧倒的に父の方が上で、抵抗しても無駄だった。

 「恥ずかしい」「どうせ信じてもらえない」。そんな思いから同居する母や姉、弟に相談できなかった。ただでさえ折り合いの悪かった家族。被害に遭っていると言い出して関係が壊れるのが怖かった。

 父は周囲への発覚を恐れてか、中学生ごろに接触をやめた。鈴木さんが被害について初めて語ったのは20年以上たってからだ。「ずっともやもやして心の中にためていた」。適応障害を患ってカウンセリングを受ける中で思いを吐き出した。

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 鈴木さんは、中学に入っても教諭からの性被害に遭った。結婚後は夫から性的、身体的暴力を含むドメスティックバイオレンス(DV)を受けた。

 「なんで自分ばかりこんな目に遭うのか」。度重なる仕打ちに耐えきれず、命を絶とうともした。

 性的虐待で自尊心を深く傷つけられた被害者は「自分は人に大切にされる価値がある」とは思えなくなる。女性の場合は、つらく当たる男性にからめ取られてしまうことがあるという。

 鈴木さんも例外ではなく、出会った男性から次々と被害に遭った。支援する女性相談員は「危険な男性を見極めるセンサーのようなものが働きづらくなったのではないか」と、幼少期の虐待が及ぼした影響の大きさを指摘する。

 鈴木さんは父の行為を忘れられない。それでも「家族」を切り離せず、義務感に駆られて定期的に会いに行く。「本当に父が憎い。早く逝ってくれたらいいと思います」。

 性的虐待 厚生労働省は▽子どもへの性的行為▽性的行為を見せる▽性器を触る、または触らせる▽ポルノ写真などの被写体にする―を具体例に挙げる。加害者は実父や養父が多く、親族の場合もある。2018年度の児童相談所への相談件数(全国)は1731件で増加傾向にある。県内の過去5年間(14~18年度)の相談件数は4~8件で推移している。家庭内で虐待されるケースが多く、潜在化しやすい。統計で示される数字は氷山の一角とみられる。