家庭内や外出先などで、おんぶされている赤ちゃんを見ることがめっきり減ったが、最近赤ちゃんをおんぶすることが見直されている。抱っこよりも赤ちゃんの視界が広がり刺激になるなどの理由のほか、防災の観点からの意義が大きい。
徳島県つるぎ町貞光の子育て支援施設「あんりーる」で、乳幼児を持つ親を対象に行われた防災講座。県助産師会顧問で同会安全対策・災害対策委員会の小島泰代委員長が、さらしを使って赤ちゃんをおんぶする方法を母親らに教える場面があった。参加した母親たちはその様子を少し珍しそうに見つめ、「おんぶなんてしたことがない」という声も聞こえてきた。
一昔前は主流だったおんぶだが、最近はあまり見かけない。機能性が高い抱っこひもやベビーカーなどが種類豊富に販売されて移動手段となっていること、家の中でも赤ちゃんに心地よい揺れを与えるバウンサーなどがあるため、家事の最中に赤ちゃんをおんぶする必要性が少なくなっていることなどが理由として挙げられる。
一方で、昔ながらのさらしなどを使ったおんぶを勧める動きが出てきている。東日本大震災をはじめ熊本や北海道など各地で地震が起き、南海トラフ巨大地震や首都直下型地震の発生も懸念される中、赤ちゃんを連れての避難時にはおんぶが最適だという理由だ。
「赤ちゃんを抱っこしての避難は、荷物を持てなくなったりつまずいた時に手をつけなくなったりするので危ない。抱っこひもを使って両手が空いたとしても、避難時に前や足元が見えなくなるので危険」とNPO法人子育て支援ネットワークとくしまの松﨑美穂子理事長は説明する。
昔の子どもは赤ちゃんの頃からおんぶされ慣れていたので、おんぶをすると落ちないようにしがみついてきていた。ところが最近は親も子もおんぶの経験がなく、親がおんぶできないだけでなく子どももおんぶのされ方が分からず背中にしがみつけないことが多いという。松﨑さんは「いざという時のためにも慣れておいた方が良い」と話す。
また松﨑さんは、東日本大震災の後仙台を訪問した助産師から「抱っこで津波から逃げた親子の中には、子どもが被災状況を直視してしまい、心的外傷後ストレス障害(PTSD)にひどく苦しむケースが多かったと聞いた」と話す。抱っこをした子どもは親と顔の向きが逆になるため、避難する時に津波にのまれる人や町の様子を正面から見てしまうのだ。そうした側面からも、おんぶで避難することの利点に注目が集まっているという。
おんぶには発達面でのメリットもある。徳島市籠屋町の「子育てほっとスペース すきっぷ」で乳幼児に関わるスタッフ向けに開かれた講座では、理学療法士で保育士でもある県立広島大の島谷康司教授が、科学的な観点から、赤ちゃんに良い抱っこやおんぶの方法について講義した。
島谷教授は、抱っこひもや布を使っての抱っこ、おんぶの際は、赤ちゃんの体がぶらぶらしていると体に負担がかかるので、しっかりめに固定することが大切だと説明。抱っこばかりではなくおんぶもすることのメリットについて「お母さんの肩越しに赤ちゃんの視界が広がるため、好奇心を刺激されたり、社会との関係性を学んだりしやすい」と話した。
おんぶをする時のポイントは▷高い位置で背負うこと▷赤ちゃんの足はカエルの足のように広げること。高い位置でおんぶすることで赤ちゃんは周囲を見やすく、親も振り向けばすぐに赤ちゃんの表情を見ることができる。また、足を広げておくことで赤ちゃんと母親の体が密着し、赤ちゃんも足を自由に動かすことができる。
小島さんは「おんぶでなければいけないということではなく、普段はお母さんが楽な方法で抱っこしてもおんぶしても良い。けれどおんぶを全くしたことがないといざという時に困るので、赤ちゃんの首がしっかりと据わり自分で首を動かせるようになったら、練習をしてみて」と勧めている。