未曾有の被害をもたらした福島第1原発事故を巡り、業務上過失致死傷罪で強制起訴された東京電力の旧経営陣3被告に、東京地裁はいずれも無罪を言い渡した。

 大津波を予見し、事故を回避できたのかが最大の焦点で、判決は「津波についてあらゆる可能性を想定し、必要な措置を義務づければ、原発の運転はおよそ不可能になる」などと指摘、被告側に過失はなかったとした。

 市民判断で強制起訴された3人の刑事責任を否定した判決に、釈然としない人も多いだろう。無罪判決を受け、強制起訴制度に否定的な意見が出てくる可能性もある。

 ただ、公判では事故原因につながる社員の証言や調書内容が初めて明らかにされており、裁判の意義は大きかったのではないか。

 東電はもとより、原発事業に携わる各電力会社も、改めて事故が招いた結果の重大さを深刻に受け止め、より一層安全対策の強化に努めてもらいたい。

 起訴されたのは、東京電力の勝俣恒久元会長と2人の元副社長だ。大津波を予見できたのに対策を怠り、2011年3月の東日本大震災による津波の浸水で原発の電源が喪失。水素爆発が起き、長時間の避難を余儀なくされた双葉病院(福島県大熊町)の入院患者ら44人を死亡させたなどとして罪に問われた。

 東京地検は3人を嫌疑不十分として2度不起訴にしたが、市民で構成される検察審査会が「起訴するべきだ」と議決。指定弁護士が16年2月に強制起訴した。

 公判では、第1原発の敷地の高さ(10メートル)を超える大津波を具体的に予測できたか、対策を講じていれば事故を防ぐことは可能だったか―が主な争点となった。

 指定弁護士が立証の柱にしたのが、最大15・7メートルの津波の可能性があるとした東電子会社による試算結果だ。08年3月、国の地震予測「長期評価」を基に計算し、東電に報告したが、「東電は対策を先送りした」と主張した。

 これに対し、3人は「長期評価の信頼性は低く、試算通りの津波が来るとは考えなかった。対策を取るのは不可能だった」などと訴えた。

 長期評価の信頼性については、証人出廷した専門家らの間でも見解が分かれていた。判決では「十分な根拠があったとは言い難く、信頼性には限界があった」と判断した。

 民事裁判では、避難者らに対する東電の賠償責任を認めた判決が各地で出ているが、厳密な事実認定が求められる刑事裁判のハードルの高さが示された形だ。

 福島県によると、今年7月時点で約4万2千人が県内外で避難生活を送っている。8年半前から時間が止まった状態の地域もある。

 安全神話を崩壊させた重大事故はなぜ起こったのか。国と東電は全力で復興に取り組むとともに、引き続き原因の解明に当たる責務がある。