徳島県内に住む川村千尋さん(仮名、40代)の元夫は「家事のやり方が気に入らない」といった些細な理由で激高した。グラスや家電を床にたたき付けたり、ぼこぼこになるまで壁を蹴ったりした。部屋の隅には、どんなに掃除しても割れた食器類の細かな破片が残った。離婚して数年がたつ今も、ガラスの破片を見ると恐怖を覚える。

 モラルハラスメントを繰り返す元夫と過ごした十数年間は、家事や育児の仕方に「ミス」がないかおびえ、機嫌を損ねないよう必死だった。

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 隅々まで支配された生活。その一部に性暴力があった。川村さんの意思に関係なく、元夫は自分の欲求に任せて性行為を求めた。仕事や家事で疲れ果てていてもお構いなし。不機嫌になるのが怖くて断れなかった。一方的な行為に愛情や快感は一切なかった。

 さらに元夫は懇願しても避妊を拒み、4年余りで3人を出産した。「夫婦仲がいいね」と周囲にからかわれると、涙が出るほど悔しかった。

 妊娠・出産の身体的負担と育児の忙しさに耐えかねて、子宮内に「避妊リング」を装着した。国内で処方されるようになってからはピル(経口避妊薬)も飲むようにした。それでも安心できなかった。子どもの世話と家事で憔悴していても、夜になると元夫が手を伸ばしてきた。

 「中身が空っぽの体を差し出しているだけ」。そう思い、行為が終わるのを息を殺して待った。涙がひとりでにこぼれた。

 次第に心が「悲鳴」を上げ始め、あらゆる精神障害を患う。うつ病に摂食障害、オーバードーズ(薬の大量摂取)―。自身の存在価値を見いだせず、リストカットも繰り返した。「死んでしまおうか、それとも夫を刺し殺そうか」。そんな考えが頭をよぎった。

 わが子はかわいかった。「自死した母親の子にも、殺人犯の子にもしたくない」という思いだけが、ぎりぎりのところで踏みとどまらせた。両親の反対を押し切って結婚した意地もあった。しかし、限界に達し、子どもの進学を機に離婚した。

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 内閣府が同意のない夫婦間の性行為や避妊の拒否を性暴力と認定していることは知っていた。ただ当時は「無感覚でいるように努めた。元夫に尊厳を奪われ、無力化されていた」と振り返る。

 元夫の支配から逃れて平穏な生活を送り、ようやく自分を取り戻しつつあると感じる。それでも時折、リストカットしそうになるという。衝動の根源には、元夫から「モノ」のように扱われ、性暴力に耐えていた、かつての自分を切り刻みたいという願望があるのかもしれない。