通勤途中に車内から何げなく見た阿波市吉野町の田んぼに、オート三輪が止まっているのが見えた。今の時代にこの車がある光景は珍しく、ノスタルジーを覚えた。
1970年代の中頃まで、オート三輪はごく普通に見掛ける車両だった。バタバタとエンジン音を響かせながら、未舗装の道路を走っていた。車種もいろいろあったと記憶している。むき出しのエンジンにバーハンドルを備えた二輪車のような形もあれば、キャビン付きの中型トラックもあった。
構造が簡単で安価、悪路にも強く、小回りが利く車両は日本にぴったりで、戦後広く利用された。四輪トラックの改良で一気に姿を消すさまは、時代を物語る示準化石のようなものである。それでも、徳島では農業や林業などの運搬用として長く愛されたようだ。
筆者の実家がある土成町一帯ではサトウキビ栽培が盛んで、収穫期に山積みのサトウキビを精糖工場へ運んでいた情景を思い出す。今思えば過積載だったかもしれないが、牧歌的な光景が懐かしい。
止まったオート三輪をしげしげと眺めていると、所有者の男性がやってきた。「興味があるんだったら譲ります」。稼働不能ながらレストア(復元)用にどうかと勧められた。読者の皆さん、いかがでしょうか?