幼い頃から実父に性的虐待を受けた宮本さん。長らく苦しんだが、今は乗り越えられたと感じている=高松市

 高松市の美容師宮本ゆかりさん(49)は幼少期から実父に性的虐待を受け、その体験に長く苦しめられた。しかし今は実名で被害を明かし、同じ目に遭った人の相談に耳を傾ける。

 「人に知られたら生きていけないと母に言われたので『本当かな』と思って話してみた。でも何も変わらないし、ちゃんと生きている」。苦しみを乗り越えられたと感じている。

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 じゃんけんで勝ったらおやつをもらい、負けたら父に下半身をなめられる―。宮本さんの記憶では、5歳ごろから性的虐待が始まった。小学校高学年になると、父が布団に潜り込んできて性行為をされた。裸の写真も撮られた。「他の家庭でもしている」と言われ、そう思い込んだ。

 性行為の意味を知ったのは中学2年の保健体育の授業だ。「これから好きになる人とすることを、既に父としてしまった」。みじめで、消えてしまいたいと思った。

 母に相談すると、口外しないようきつく言われた。母を困らせ、家庭を壊すのが怖くて誰にも言えなかった。「父の性欲のはけ口、おもちゃになるために生まれてきたのか」。自殺願望が膨らんだ。しかし、父に死体を見られるのは屈辱だと思い踏みとどまった。

 一方で、その頃から父の要求を拒否できるようになった。親しい仲間が増え、家に泊めてくれる友人もいた。長らく支配された父から逃げ出した。

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 高校卒業後、県外の美容室に就職して20代前半で結婚。子どもを授かり死にたいとは思わなくなったものの、30歳でうつ病になり退職した。病の根本に虐待の体験があると認識していた。

 1年かけて治療し、美容室を開業。経営を軌道に乗せ、自己肯定感が持てるようになった。その頃に「うつ病の苦しみはもう味わいたくない」と被害に向き合った。しまい込んでいた記憶を呼び起こして整理し、ブログにまとめた。

 長年の苦しみを両親にもぶつけた。ところが父は「お前も喜んでいた」となじり、母は「許してほしい」と言った。悪びれない父の態度に、むしろすっきりした。「私が悪かったのではないか」との罪悪感を捨てられた。

 2018年に「自分は自分」と、実名でニュース番組に出演した。放送後も周囲の態度は変わらなかった。虐待について沈黙を守るよう強いた、両親の呪縛から解き放たれた気がした。

 同じような被害者から相談のメールが届く。悪いのは加害者なのに、みんなが自責の念を背負っている。「あなたは悪くない。自分を許し、いたわってほしい」。かつての自分に語り掛けるように返信を続けている。  =第1部おわり

 性暴力の加害者 交際相手など親密な関係の人や、仕事・学校での関係者など「知っている人」が多数を占める。内閣府の「男女間における暴力に関する調査」(2018年版)によると、「無理やり性交された経験がある」とした人のうち、「全く知らない人から」と答えたのは11・6%。配偶者と交際相手がいずれも23・8%で最も多く、上司や取引先の相手など「職場・バイト先の関係者」が14・0%と続いた。相手との関係が壊れたり不利益を被ったりすることを恐れ、被害を言い出せないケースが多い。

 

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