徳島地裁

 法廷に立てられたついたての向こう側から聞こえる声は震え、時に涙で詰まった。声の主は、路上で突然背後から被告の男(27)に襲われ、わいせつな行為をされた上にけがを負わされたAさん。「悔しい思いを裁判長や裁判員に分かってもらいたい」と、周囲の反対を押し切って法廷に立つことを決めたという。

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 徳島地裁で開かれた論告求刑公判で、検察側の論告に先立ち、Aさんは意見陳述をした。

 被害者がなぜ人の目を気にして生活しないといけないのか、(被害を)隠さないといけないのか-。悔しい思いを裁判員らに分かってもらいたいと思い、参加した。

 被害に遭ってから、背後から話し掛けられると体が固まり、動けなくなることがある。事件直後は暗い場所を歩くのも怖く、電気を付けていないと眠れなかった。1人になれば恐怖感に襲われ、気分が悪くなってしまう。

 母も事件を思い出しては「車で送っていれば」「そもそも現場へ行かせなければ」と泣くことがある。父は気丈に振る舞っていたが、ショックを受けて泣いていたと後から聞いた。私や家族が選択した行動が後悔に変わってしまい、(事件を)思い出したくもない。

 こんな思いや感情に、私や家族は一生付き合わなければならない。なぜこんな目に遭うのか。怒りしかなく、犯人を許すことはできない。

 今回のような事件は、これからもあるだろう。私のような被害者が前を向いて進めるよう、被害に遭う人がいなくなるよう、自己満足のために他人に危害を加える犯人に、厳しい処罰をお願いしたい。

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 男は若い女性を駅などで物色し、Aさんの事件の約1カ月前にも、同様の手口でBさんを襲っていた。男には同種の前科があり、服役を終えて1年もたたないうちに女性を襲った。被告人質問では犯行を繰り返したことに対して自分勝手な動機を並べ、女性へのゆがんだ欲求を口にした。

 検察官 襲う相手を物色していたと言うが、どんな女性を狙おうと考えた?

 -一人で夜道を歩いている女性です。

 検察官 年齢層は。

 -10代後半。大人より力が弱いし、(襲われた時に)対応できそうにないから。

 検察官 なぜ夜に、一人歩きの若い女性を狙った?

 -ばれないようにするため。周りが暗いので犯人と思われにくいと考えた。

   -中略-

 検察官 Aさんの下半身を触った時、どんな気持ちだったのか?

 -「いけないことをしている」とか「辱めている」という気持ちで気分が高揚していた。

 検察官 当時、肉体関係を持つ女性はいた?

 -はい。

 検察官 にもかかわらず、どうして性犯罪を犯したのか。

 -うまく説明できないが、わいせつ行為と、肉体関係を持つというのが(自分にとって)一緒でないからだと思う。

 検察官 同意のある性交とは違う感覚があるということ?

 -はい。

 検察官 被害者に対し、ひどいことをしているとは思わなかったのか。

 -全く思わないわけではないが、高揚感の方が強いと思う。

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 男は2013年に同僚のネックレスを盗んで逮捕され、16年には強制わいせつや軽犯罪法違反の罪で実刑判決を受けた。18年2月に出所後、8カ月ほどで、わいせつ行為をする相手を物色するようになる。同年12月にBさん、今年1月にAさんを立て続けに襲った。

 弁護士 窃盗で有罪判決を受けた後、真面目に働いていたのに、再び道をそれていったきっかけは。

 -改造車で夜中にコンビニにいたら、警察に職務質問された。自分に前科があると分かったら、態度が変わった。その時、ずっとこういう風にされて生きていくのだと思ったのがきっかけ。頑張るのがばからしくなった。

 弁護士 その後、どういうことをするようになった?

 -一人で歩いている女性の後をついて行った。トイレや風呂をのぞいて盗撮した。

   -中略-

 弁護士 最初はのぞきや盗撮。それが、女性を襲い下半身や胸を触るようになったのはなぜ?

 -のぞきや盗撮をする中で、エスカレートしていった。

 弁護士 女性の体を触ると、どういう気持ちになった?

 -相手の嫌がることをしているという優越感や高揚感を感じた。

 弁護士 18年2月に仮出所した。インターネットビジネスの勉強も始めるなど努力していたのに、再び(わいせつ行為を)するようになったのはいつごろ?

 -18年10月ごろです。

 弁護士 どのようなことがきっかけ?

 -高校時代の友人とたまたますれ違った時、相手は彼女といた。2人でこっちを見ながら内緒話をされた。犯罪者と知っているので、こういう対応をされたと思った。

 弁護士 裏切られたように思った?

 -はい。

 弁護士 しかし2人の会話を聞いてないし、(自分のことを話したと思うのは)推測では?

 -そうです。

 弁護士 その時どう思った?

 -出所して頑張っていた。張り詰めていた気持ちが切れる感じだった。

 弁護士 この出来事以来、どうするようになったのか。

 -1人で歩いている女性を探し、後をつけるようになった。以前のようにわいせつをしようと思い、つけていた。

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 男は検察官の質問に対しても、警察官の職務質問や友人の態度によって「気持ちが折れた」ことが原因で、わいせつ行為に走ったと説明した。自分には何ら関係のない理由により突然襲われた被害者の心情に検察官が言及し「(性犯罪は)『魂の殺人』と言われていることを知っているのか」と詰め寄ると「はい」と小さな声で答えた。

 結審前の最終陳述で、男は「二度と再犯をしないため、最大限の努力をし続ける」と述べた。ただ、これまでも服役中や保釈後に、性犯罪の再犯防止プログラムを受けていた。裁判長はこの点に着目し「再犯の可能性が懸念される」と指摘した。

 下された判決は懲役5年。男は被告人質問で、出所後は性依存症の専門施設で治療を受けて再犯防止に努めると約束していた。法廷で声を絞り出した被害者の思いは届き、誓いは守られるのか。

(2019年9月30~10月2日)

 《事件の概要》吉野川市のとび職の男が2019年1月18日、市内の路上で女性=当時(18)=に暴行を加えて下半身を触り、3日間のけがを負わせた。18年12月5日には市内で女性=当時(19)=の口をふさいでわいせつな行為をしようとしたが、女性が大声を出したため未遂に終わった。