徳島県鳴門市の大塚国際美術館に、県出身のシンガー・ソングライター米津玄師さんのシングル「Lemon」のジャケットイラストが陶板名画になって登場し大きな話題になっています。世界でも類を見ない陶板名画だけを集めた大塚国際美術館ですが、そもそも陶板名画とはどのようにして作られるのでしょうか。10月1日に公開された最新陶板名画であるフェルメールの「地理学者」の制作工程を基に、美術館のスタッフと陶板制作を担当する大塚オーミ陶業(滋賀県)の担当者に教えてもらいました。

写真を拡大 大塚国際美術館が新たに公開したフェルメールの「地理学者」の陶板名画

 陶板名画の制作は、まず陶板化する絵画の選定から始まります。美術館のスタッフが世界中から収集した絵画に関する情報の中から、時々の流行や外部選定委員の意見を基に来館者の関心が高そうな作品を選びます。作品選定が終わると、原画の著作権者や所有者の許諾を得るための交渉に移ります。交渉は電話やメールで行われるほか、直接会って行われることもあります。世界中を飛び回って交渉するなんて、なんだかかっこいいけど大変そうですね。

写真を拡大 陶板名画に使われる絵の具

 著作権者や所有者の許諾を得られると現地調査に移ります。美術館や大塚オーミ陶業の担当者が原画を展示・保管している海外の美術館などを訪れ、寸法を確認したり、印刷物や資料等を持ち込んで色調やマチエール(画材の厚みや質感がもたらす肌合い)を比較検討したりした上で、制作に必要な写真を撮影して情報を収集します。「地理学者」の場合は、所有者の許諾後にデジタルデータを入手して制作されました。

写真を拡大 転写紙への印刷作業

 入手した画像データはその他の調査した資料を参考にしながら、印刷物と同様の工程でY(イエロー)、M(マゼンタ)、C(シアン)、K(ブラック)の4色に色分解を行って製版された後、シルクスクリーンの技法で無機顔料を使って転写紙に印刷され、さらに上から樹脂をコーティングして転写紙を完成させます。 

写真を拡大 画像が転写される前の陶板

 名画のベースとなる陶板は、1200度で焼成する「せっ器」という焼き物の一種で、通常は白い釉薬(ゆうやく)を塗ってから焼成して仕上げます。一般的に最大60センチ×3メートルまたは90センチ×2・5メートルのサイズで、制作する陶板名画の大きさに調整して製作されます。「地理学者」は小さな作品のため使われている陶板は1枚だけですが、大きな作品になると複数枚で構成されます。米津さんが紅白歌合戦で「Lemon」を歌った際に背景で楽曲の荘厳な世界観を彩っていたミケランジェロの「最後の審判」は縦約14メートル、横約13メートルもある大作のため、110枚もの陶板が使われているそうです。

写真を拡大 全長50メートルの巨大な炉で焼成される陶板

 釉薬を塗って焼成された陶板に、転写紙から画像を転写した上で、全長50メートルの炉で8~10時間かけて焼成します。作品の色調は焼成前後で変わるため、焼き上がりの色合いを予測して絵の具を選んでいるそうですが、より原画に近づけるために専門の職人が調査資料を参考に手作業で色を補う「補色着彩」や焼成を数回くり返してようやく完成。最終的に監修者の検品を受け、額装、展示となります。検品で不具合があれば再度、レタッチや焼成が行われます。1つの陶板名画を制作するのに通常約3カ月かかるそうで、大きな作品では許認可作業や現地調査を含めると半年ほどかかる場合もあるということです。

写真を拡大 「地理学者」の細かな色合いを補正する職人

 大塚国際美術館が開館した1998年当初は、陶板名画の表面は平面的な仕上がりが多かったそうですが、近年はデジタル化や関連機器の発達に伴い、より精密で正確な資料を入手できるようになり、これらを基に分解、製版、印刷技術、さらには印刷絵の具の組み合わせなどの開発・改良によって陶板名画の質は大きく向上しているそうです。ゴッホの「ヒマワリ」に見られるマチエールや、「地理学者」に見られる質感のような、画家の筆遣いを細部まで再現することも可能になっています。収蔵作品は触ることができるので、ぜひその驚きの再現度を確かめてみてください。くれぐれも、優しく触れてくださいね。 

写真を拡大 細かな部分まで入念に補正する

 こうして改めてお話しをうかがってみると、1つの陶板名画ができあがるまでには技術者の苦労や努力があることがわかりますね。陶板を作る技術は、さまざまな要求に応じて課題をクリアしていく中で今も進化し続けています。現在では3D技術(3Dスキャナーや3Dプリンター)を取り込んで縄文式土器や立体作品を精密に再現することも可能になっています。大塚国際美術館を訪れた際には単に作品を楽しむだけでなく、こうした制作過程にも思いをはせて鑑賞してみると、また違った楽しみ方ができるのではないでしょうか。

写真を拡大 「地理学者」など新作2点が仲間入りした大塚国際美術館のフェルメールギャラリー

 大塚オーミ陶業では、こうした陶板の制作技術と古くからの匠(たくみ)の技や写真製版、造型、釉薬技術、最新の3D技術などを組み合わせて、文化財や絵画の再現などの挑戦を続けています。個人の注文を受けてオリジナルの陶板や、サイン板、ポートレートも制作しており、お値段はA4サイズで30万円からとなっているそうです。現画像を忠実に再現するクオリティーの高さと、2000年たっても色あせないという寿命の長さが特長の陶板画。興味のある方は「マイ陶板」の制作に挑戦してみてはいかがでしょうか。(R)