今年のノーベル化学賞に、リチウムイオン電池を開発した旭化成名誉フェローで名城大の吉野彰教授ら3人の受賞が決まった。

 日本人の受賞は、本庶佑京都大特別教授が医学生理学賞に選ばれた昨年に続く快挙である。化学賞は2010年の鈴木章北海道大名誉教授と根岸英一・米パデュー大名誉特別教授以来で、8人目だ。

 日本の科学技術のレベルの高さを改めて示したといえ、大いに喜びたい。

 リチウムイオン電池は、アルカリ電池やマンガン電池と違い、充電が可能で何度でも使えるのが特徴だ。

 1990年代に商品化が始まり、小さくて軽く、高電圧で寿命が長い電池の登場は、私たちの暮らしを大きく変えたと言って過言ではない。

 パソコン、スマートフォン、ビデオカメラといった電子機器はもちろん、ハイブリッド車や旅客機にも使われ、用途は急速に広がっている。

 IT革命の原動力となった上、近年は、次世代の電気自動車や再生可能エネルギーの蓄電池など、深刻さを増す地球温暖化の解決に役立つとの期待も大きい。

 ストックホルムの王立科学アカデミーが「人類に偉大な貢献をした」と、開発をたたえたのはうなずけよう。

 吉野さんは72年に京都大大学院工学研究科を修了し、旭化成工業(現旭化成)に入社した。

 リチウムを使った電池の開発に着手したのは81年のことだ。電気を通すプラスチック「ポリアセチレン(PA)」が電子を出し入れできる性質を持つことに注目。83年には、コバルト酸リチウムを電池の正極(プラス)に、PAを負極(マイナス)に使ったリチウムイオン電池の原型を作った。

 85年、PAよりさらに熱に強く、小型化できる炭素材料を負極に使い、現在のリチウムイオン電池を完成させた。

 もちろん、吉野さんだけの功績ではない。正極にコバルト酸リチウムが適していると発見したのは、共同受賞した米テキサス大オースティン校のジョン・グッドイナフ教授と、水島公一・東芝エグゼクティブフェローらである。

 多くの先人が研究に打ち込んできた結果が実用化につながった。地道な積み重ねがいかに大切かを物語るものだ。

 受賞が決まった後、吉野さんは、研究を始めた動機について「好奇心が主な原動力だ」とし、「いろいろな分野で若い人たちが研究している。大きな励みになると思う」と述べた。

 一方で、日本の基礎研究の力が低下していることを「懸念している」と語った。

 性急に成果を求める現在の風潮に、危惧を抱く関係者は少なくない。吉野さんは、IT革命に続く次の革命は、エネルギー分野で起こると指摘している。世界に後れを取らないよう、じっくりと研究に打ち込める環境を整える必要がある。