かんぽ生命保険の不正販売を報じた昨年のNHK番組を巡り、経営委員会が日本郵政グループから抗議され、NHK会長を厳重注意していた。

 公正であるべき報道をゆがめかねない不当な介入は、断じて許されない。同様のことが再び起きないよう、関係者は詳細な経緯と責任の所在を明らかにすべきである。

 問題となったのは、昨年4月に放送された「クローズアップ現代+(プラス)」だ。

 郵政側は、NHK会長に「犯罪的営業を組織ぐるみでやっている印象を与える」と抗議。さらに「会長は制作に関与しない」との番組担当者の説明を取り上げ、NHK経営委にガバナンス(企業統治)体制の強化を要請した。

 これを受けて経営委は会長を厳重注意し、会長は郵政側に「誤った説明だった」と事実上謝罪したという。8月の放送を目指した続編は、不正販売が公になった後の今年7月まで先延ばしされた。

 経営委は、会長人事など重要事項を議決するNHKの最高意思決定機関である。

 だが、個別番組への介入は放送法で明確に禁じられている。国会の同意を得て首相に任命される委員が口出しすれば、公正・中立性が脅かされる恐れがあるためだ。

 会長への厳重注意はこれに抵触する疑いが強い。委員長は「番組に介入する意図は全くなかった」と釈明しているが、到底納得できない。

 委員長は一連の経緯を、放送法で義務付けられた議事録に掲載していなかった。異例の措置を隠そうとしたと取られても仕方あるまい。

 放送部門トップの放送総局長が郵政側に出向き、会長名の謝罪文書を手渡していたのも異様だ。制作現場の萎縮を招くとは考えなかったのか。

 NHKは経営改革の基本方針に「放送の自主自律を貫く」と明記している。経営委や会長らはいま一度、その意味をかみしめてもらいたい。

 日本郵政の責任も重大だ。昨年の放送を受けて不正販売の実態を自ら調べ、改めるべきだったのに放置し、執拗に抗議を繰り返していた。

 先月公表された調査の中間報告では、法令などに違反した疑いのある契約は6千件を超え、さらに増える見込みだ。まさに組織ぐるみで「犯罪的営業」を行っていたわけである。他社のガバナンスを批判する資格はなかろう。

 政府が筆頭株主である日本郵政は政権と関係が深く、要職には放送行政を所管する総務省のOBが少なくない。今回の抗議には、元総務事務次官の上級副社長が関わっていた。介入の背景に政治的圧力があったとすれば、看過できない事態である。

 高市早苗総務相は、個別番組への介入を禁じた「放送法に反した行動ではないと認識している」と述べたが、甘すぎるのではないか。

 報道の自由に関わるだけに、経営委員選任の在り方を含め、国会で徹底的に議論すべきである。