心臓が止まった人を助けようと119番する。救急車の到着まで平均8分超。その間、居合わせた者が蘇生術を施すと、命を救う可能性は2倍に膨らむ。万一の事態に慌てぬよう救命講習を受けた

 人形を相手に心臓マッサージをやって、強い戸惑いを感じた。相手が人間なら、胸の骨が折れることもある。まして幼子なら、その小さな胸に自分の体重を載せられるだろうか。一度の講習では、とても自信がない

 船戸結愛ちゃんの自宅に駆け付けた消防隊員は、黙々と心臓マッサージを繰り返す母の姿に遭遇する。「子どもの心臓が止まったかもしれない」との父親の119番から7分後。消防との電話でやり方を指導されたのだろう

 父親から極度の食事制限を強いられ、あばら骨が浮き出ていた結愛ちゃん。やせ細った胸を一心に圧迫する。母でしかやり得ない、究極の局面のように思う。もっと早く「助けて」と叫んでいれば、娘を救えた。なぜ、できなかったか

 元夫の裁判で証言した元妻は脅え、震えていた。恐怖による心の支配は、事件から1年半を経ても消えないのだろう。「なぜ」を解く鍵はきっとそこにある

 あの日、現場には新しいランドセルと「入学のしおり」があった。命を救えていたら7歳7カ月、もう小学2年だ。改めて思う。子どもの命より守るべきものはない。