秋祭りの時季に欠かせないボウゼ(写真手前)とアジの姿寿司

山を背にぽつんと立つ「田舎寿し」。酢で締めた魚ずしは内陸部でもよく食べられている=勝浦町三渓

 秋の食べ物として徳島県民に親しまれている小型魚のボウゼ。県特産のタイやハモといった高級魚ではないものの、脂の乗った1匹をまるごと使う姿ずしは野趣に富み、食べ応えがある。祭りに欠かせないちょっとしたごちそうだ。

 徳島市津田町の徳島市漁協。午後1時半をすぎると、沖に出ていた漁船が続々と帰港し、コンテナに入った銀色のボウゼがどんどん水揚げされていく。

 地域の秋祭りが開かれる頃、ボウゼの姿ずしを無性に食べたくなる人は多いのではないだろうか。市内の飲食店はもとより、スーパーや産直市に出回り、手頃な値段で食べられる。

 姿ずしは飾り気のない趣があり、どことなく郷愁を誘う。そんなイメージに合う店の名を思い出し、あえて内陸部に足を伸ばした。勝浦町の持ち帰り専門店「田舎寿し なか山」。勝浦川のそばに、日本家屋を模した小さな建物がぽつんとある。

 陳列棚にさまざまな魚の握りずしや巻きずしが並ぶ。ユズ酢で締めたすしネタが多い。魚が傷まないよう工夫した山間地域の食文化を思わせる。ボウゼの姿ずしを注文すると早速、奥の調理場から握られたばかりのすしが出てきた。

 一人で切り盛りする中山冨士子さん(75)は「ボウゼのすしは家ごとの作り方があるから・・・。うちは酢をよく利かします」と柔和な笑顔を浮かべる。母親譲りの素朴な味が売りという。

 ボウゼを背開きにし、骨や内臓、目玉を取り水で洗って半日ほど塩漬けに。身が締まった頃に塩を洗い流し、酢に漬ける。身が柔らかくなるので、頭から尻尾まで食べられる。やはりユズ酢を使うのがポイントだ。そして、魚の大きさに合わせて酢飯を握る。一口で食べ切れないサイズになるので、豊作を祈る秋祭りにふさわしいぜいたく感を醸し出す。

 スダチの袋詰めを客にお裾分けしている。輪切りを添えたり、絞った果汁を掛けたりと爽やかな香りは姿ずしに欠かせない。

 今の時季はアジの姿ずしもなじみ深い。姿ずしそのものが珍しいと、喜んでまとめ買いする県外客がいれば、魚の頭を怖がる女性客も。近くの専門学校に通う若者は「これ何という魚ですか」「旬なんですか」と興味深そうに手に取っていく。春先はアメゴ、夏はアユの姿ずしに変わる。

 田舎寿しは、町内で鮮魚店などを営んでいた兄の富晴さん(86)が50年ほど前に開業した。最盛期には徳島市や阿南市などに6店を展開し、さらに富晴さんはタイで和食店を開いた。その後、店舗は本店のみに集約し、持ち帰り専門店に。冨士子さんは2004年に店を引き継いだ。

 ボウゼやアジの姿ずしは祭りの時季になると各家庭で作られた郷土の味。しかし、核家族世帯や高齢の独居世帯が増えるにつれて手作りする機会は減り、懐かしい味を手軽に買えるこうした店が喜ばれている。富晴さんは昨年、傘寿を超えてなお、近くに食堂を開店する精力ぶりで、地元住民の憩いの場を提供している。

 冨士子さんは「お客さんとの世間話が楽しいし、リピーターが来てくれるとうれしい。体が丈夫なうちは続けていきたい」と明るく語った。

 営業時間は午前8時半から午後6時半まで。水曜定休。駐車場なし。問い合わせは<電0885(42)3847>。