ロシアの支援を受けたアサド政権が優位を固め、膠着状態にあったシリア情勢が再び緊迫してきた。

 米軍が北部からの撤収を進める中、トルコ軍が侵攻し、過激派として敵視するクルド人勢力を標的にした軍事作戦を激化させているからだ。

 米国と協力関係にあったクルド人勢力は後ろ盾を失ったことで、対立してきたアサド政権軍と連携。政権軍がすぐさま国境付近で軍事展開を始めるなど、現地の勢力間の構図が劇的に変化している。

 こうした事態を受け、米政権はペンス副大統領をトルコに派遣。エルドアン大統領との協議の結果、トルコが軍事作戦を5日間、停止することで合意した。この間に、クルド人の民兵組織「人民防衛部隊(YPG)」が国境地帯から撤退するとしている。

 クルド側は応じる意向を示しているとされ、国際社会が懸念していたトルコとシリアの正規軍同士の戦闘はひとまず回避されそうだ。

 だが、合意には不確定な部分があるうえ、シリアやロシアの動向も見通せず、まだ予断を許さない。トルコ、米国はもとより、関係国は今後も協議を重ね、本格的な停戦合意につなげてもらいたい。

 トルコ軍による越境軍事作戦は9日に始まり、民間人の犠牲が拡大する一方、16万人を超える避難民が新たに発生している。

 トルコの狙いは、クルド人勢力を国境地帯から一掃したうえで、シリア側に広大な「安全地帯」を設置し、トルコが抱える大量の難民の帰還先とする構想だ。

 シリア内戦が始まった2011年以降、トルコで暮らすシリア人難民は360万人に上る。国内経済が低迷する中、自国にとどめることが厳しくなっており、シリアに難民を送還する計画だ。

 経済的な事情は理解できるにしても、想定している安全地帯は、もともとクルド人が暮らしていた地域である。武力による一方的な排除や押しつけは暴挙と言うほかない。国際社会で非難の声が高まるのは当然である。

 米国の責任も重い。トルコ軍の侵攻は、トランプ大統領が北部からの駐留米軍の撤収を発表したのが引き金だ。

 クルド人勢力はこれまで米軍と協調し、過激派組織「イスラム国」(IS)掃討作戦の主軸を担ってきただけに、裏切られた思いだろう。

 現地では同勢力の下、複数のIS収監施設があり、現在も1万1千人を拘束中とされる。管理不能となれば、ISが息を吹き返す恐れもあり、世界にとっても脅威だ。

 軍を撤収し、協力関係にあった勢力を見捨てたことに、米国内で反発が強まっているほか、対イランで米政権を頼るイスラエルなども危機感を強めているという。

 トランプ氏は、自らの軽率な決断がシリアの混乱と不安定な状況を生みだし、同盟国や友好国の信頼も損ねていることに気付くべきだ。