「意味が分からない」。徳島新聞がウェブアンケートで校則に関する経験談を募ったところ、複数の女子生徒から、服装や頭髪についての校則に疑問の声が寄せられました。県内の全日制公立高校33校の装いに関する校則を調べると、細かな規定があることが分かりました。今の時代にふさわしい校則とは―。
徳島新聞は情報公開請求で校則を入手し、各校に装いの規定に関するアンケートを実施した。
校則の文言で目につくのが「高校生らしさ」。過半数に当たる18校で類似の表現があり、城南高は「高校生らしく清潔に調髪」、板野高では頭髪は「高校生らしく清潔で気品あるもの」と記されている。
全校が頭髪の染色や脱色、パーマを禁止している。約8割の27校は、地毛が黒・ストレートでない場合に、「地毛証明」などと呼ばれる書面や口頭での届け出を課す。5校が髪留めや髪を束ねるゴムの色を校則で指定しているほか、「髪留めは華美でないもの」「髪飾りは禁止」とする学校もあった。
徳島商業高は、編み込みや、ひとつにくくった髪をくるりとまとめたお団子ヘアを禁止していた。同校に理由を問うと、「高校生としてふさわしい品位を保つための規定。制服を着たときのトータルの視点で考えている」と説明した。
何をもって「高校生らしい」とするかは曖昧だ。お団子ヘアや編み込みが他校では禁止されていないところを見ると、解釈は少なくとも学校によって異なるようだ。
スカート丈については、大半の学校で「膝が隠れる程度」「膝に裾がかかる程度」と規定している。検査の厳しさは学校によって濃淡がある。「教員による目視」の回答が多かったが、川島高とつるぎ高は「生徒を膝で立たせ丈をチェックする」と答えた。丈が短く校則に違反している場合、生徒が購入し直すケースもあると答えた学校もあった。
夏の女子の下着は「白・ベージュを原則」
下着の色や柄についての規定を設けている学校も6校あった。
つるぎ高は校則で、夏の女子の下着を「白・ベージュを原則とする」と定めている。同校は「色付きの下着が透けることを防止するため」と説明する一方、近年は「下着の色で指導した実績はない。見直しを検討してもいいかもしれない」とした。
池田高、池田高辻、池田高三好は「華美な色物や柄物の下着や衣服を着用しない」、小松島西高勝浦は「下着の色は華美でないもの」と規定。那賀高は校則に明記していないものの、「白ブラウスから透けて見えない色や柄にしている」と答えた。
大半の学校が指定のセーターやベストの着用を求めていたほか、靴下を指定している学校もあった。
中学校の校則についても、徳島市立全15中学校の校則を情報公開請求で確認したところ、髪型や靴下、靴の色など細かな規定があり、学校によって異なっていた。
「教員には『だめなものはだめ』と言われる」
寄せられた声には、校則の存在自体への異議はなかった。生徒の意見として目立ったのが、各規定の制定理由の不明瞭さや、変更のための手続きが確立されていないことへの不満だ。
県内の公立高校に通う女子生徒は頭髪の規定について「教員に『なぜだめなのか』と聞いても、『だめなものはだめ』と言われるばかり。納得できる理由を説明してほしい」と訴えた。
ある大学生は、中学校時代を振り返り「(細い)アメリカピンしか許可されていなかったけれど、髪質のせいで留まらない。パッチン留めの許可を求め、生徒総会で意見を出した」と述べた。教員から「生徒間で差を生まないために禁止している」と説明されて終わったとし、「生徒総会は毎年あったけれど、『何を言っても無駄』という空気があった」とする。
保護者からは、既にある衣服を着たいという要望が複数寄せられた。「学校指定のセーターやベストが高価。市販のものでよい」「丈が少し足りず、譲られたスカートがはけない」「くるぶし丈のソックスがたくさんあるのに、禁止されていてはけない」―。家計への負担軽減や、リユースを含む衣類の有効活用が主眼だが、校則が壁になっている。
全国では見直す動きも
校則を見直す機運が高まる中、全国では校則を学校のウェブサイトで公開する動きがある。大阪府では2018年、152の府立高校が校則を公開した。府教委は「中学生が進路選択する際の判断材料になる」とする。世田谷区では区議会で校則が議論されたことを受け、11月中にも29の区立中の校則を公開する。
文科省は校則について「生徒の実態、保護者の考え方、地域の実情、時代の進展などを踏まえたものとなるよう、積極的に見直しを行うことが大切」としている。「古くて変な校則に、令和になってまでとらわれないでほしい」。ある女子高校生は、こう意見を寄せた。
「守る人」より「考える人に」
「ブラック校則をなくそう!」プロジェクトの発起人の一人、渡辺由美子さん(55)=NPO法人「キッズドア」理事長=に、今なぜ校則を考えるべきなのかを聞きました。
―「キッズドア」で経済的に苦しい家庭の子どもたちに学習支援をしてきた渡辺さんが、校則の問題に取り組むようになったきっかけは。
昨年はNPOで約1900人の中高生を支援しました。子どもたちと話す中で、学校で大変な思いをしていることが分かるんですね。例えば、学校から指定されたものが買えないとか、髪をカットするお金がないとか。
そんなとき、大阪府で地毛が茶色い高校生が黒染めを強要されたという出来事をニュースで知りました。子どもたちがつらい目に遭っているのをどうにかしたいと、プロジェクトを始めました。
―プロジェクトが実施した全国調査では、校則が厳しくなっていることが分かります。
自由な時代になっていると思いきや、昔よりもいろんなことが細かく定められています。
加えてウェブサイトには500以上の意見が寄せられました。特に女子は大変な思いをしているのが分かります。下着の色をチェックする学校があるほか、プールを休むために生理が何日目かを言わないといけない学校もあります。
色指定などがあることで、靴下なども入学時に買い替えないといけない。それが経済的につらい家庭もあるので配慮してほしいと思うのですが。
―多くの学校は「生徒に校則を守らせていること」が就職先へのアピールになると考えているようです。
かつては「言われたことをする人」が社会で求められていましたが、定型的な仕事は人工知能(AI)やロボットが担っていっています。企業からよく聞く嘆きは「今年の新人は言われたことしかしない」。現代社会が求めるのは「自分で考えられる人」です。
加えて今は、グローバル化の時代。外国の人と仕事をする際、ルールがないことはよくあります。学校教育では「ルールは厳然とあり、納得していなくても守らないと罰せられる」とばかり教えています。結果、ビジネスで相手に有利なルールを言われ、受け入れて負けるということが起きています。五輪でも、競技の前にルールを決める段階で日本は弱い。
必要なのは、ルールを作れる人、またルールが適切なのかを判断できる人です。校則の影響は大きい。学校側も時代の変化に気付き、求められる人材を育てていくべきでしょう。
―どのように校則を見直していけばいいでしょうか。
一つは、よい事例から学んでいくこと。例えば、千代田区立麹町中学校や世田谷区立桜丘中学校では細かな校則をなくしています。
校則は校長先生の気持ち一つで変えられます。先進事例を基に、「どんな子も楽しく、安全に学ぶためにどんなルールが必要か」を、学内外のみんなで考えていくプロセスが大切です。
わたなべ・ゆみこ1964年、千葉県生まれ。大手百貨店勤務などを経て2007年、「キッズドア」を設立。全国子どもの貧困・教育支援団体協議会副代表。
「親世代」より規定細かく
教育関係者らによる「ブラック校則をなくそう!」プロジェクトが2018年に実施した全国調査では、50代が中高校生だった頃よりも今の10代の方が、細かな校則の規定を受けていることが明らかになっている。
調査は、15歳以上の10代から50代の2千人を対象に経験した校則を尋ね、年代別に分析した。
高校時代の校則について、「下着の色が指定されていた」と回答したのは、50代では0・94%にとどまる一方、10代では11・39%と大きな差がみられた。「スカート丈の規定があった」としたのは50代の30・52%に対し、10代では48・1%と半数近くに達した。
中学校時代でも、整髪料の使用制限など細かな校則を経験した人の割合が10代で高かった。
プロジェクトは今年8月、約6万人の署名と実態調査を求める要望書を文部科学相に提出した。
編集後記
「頭髪・服装の乱れは学校全体の評価につながります」。富岡西高、小松島高、城西高神山校の校則には、こう書かれています。3校に限らず、学校が地域や社会の目を意識して校則を規定していることが、取材からうかがえました。
学校の外にいる私たちが子どもたちの内面や才能ではなく、髪型やスカート丈などの外見しか見ていない。そうだとしたら、「地毛証明」の届け出といった人権やプライバシーに踏み込んだ校則や、不必要に細かい校則があることに、私たちも責任を負います。
変化の兆しはあります。P&Gのヘアケアブランド「パンテーン」は今秋、自分らしい髪での就職活動を呼び掛ける広告キャンペーンを展開し、139社が協賛しています。
徳島新聞には、細かな校則に疑問を持つ教員からの声も届いています。ただ、教員が校則の見直しに向き合うには、現在の多忙な労働環境の改善が必要です。昭和時代につくられた日本のさまざまな仕組みや慣習は、制度疲労を起こしています。校則、教員の働き方など学校の仕組みもそのひとつ。議論して、アップデートしていきませんか。