ロシアの作家エレンブルグは、独裁者スターリンの亡き後に訪れたソ連社会の変化を、小説「雪どけ」に著した。1954年のことである。表題は後に、とりわけ国際間の緊張緩和を指す言葉として一般化した

これも雪解け、朝鮮半島の緊張緩和の兆しと捉えていいのだろうか。北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長が中国を電撃訪問し、習近平国家主席と初めて会談した

核・ミサイル開発でぎくしゃくしていたものの、もとは「血盟」と呼ばれる強い結束を誇る両国である。4~5月に予定される南北、米朝の両首脳会談を前に、北朝鮮は後ろ盾を求め、中国は「蚊帳の外に置かれかねない」との焦りから関係改善へ動いたようだ

腹の底がまるで読めない指導者たちが、ある時は角突き合わせ、ある時は手を結ぶ。トランプ米大統領も加わって、国際政治の連立方程式はどこまで複雑になるのだろう

平昌五輪以来の急展開に置き去りにされそうだが、半島の非核化はもとより、拉致被害者の帰国もいまだにかなわない。日本の立場からすれば何も変わっていない

作家が希望を感じた当時のソ連は、すぐに冬の時代へ逆戻りした。国際社会の季節の移り変わりは一方向とは限らない。たとえ雪解けが進むとしても、雪崩や洪水の危険がある。日本外交の真価が試される、歴史的な局面である。