東京五輪のマラソンと競歩が札幌で実施されることが決まった。酷暑の東京を避けるというのが理由である。

 選手の負担を和らげるためには、致し方ないのかもしれない。ただ、本番が9カ月後に迫る中での決定は極めて異例だ。五輪の花形であるマラソンが開催都市以外で行われるのは、史上初めてである。

 変更の過程では、国際オリンピック委員会(IOC)の強権的な体質が目に余った。暑さ対策を進めてきた東京都との溝が深まり、小池百合子知事が「合意なき決定だ」と憤ったのは無理もない。

 札幌開催は決まったが、課題は山積している。IOCと東京五輪・パラリンピック組織委員会、政府は札幌市と一丸となって、準備を急ぐ必要がある。

 IOCが突然、札幌開催の検討に入ったと発表したのは先月の16日だった。翌日にはバッハ会長が、大会組織委とIOC理事会で合意していると発言。都が知らされたのは発表の前日で、完全に蚊帳の外に置かれていた。

 日本陸上競技連盟の強化委員会や選手らからも反発が噴出したが、IOCは聞く耳を持たなかった。強調する「アスリートファースト(選手第一)」とは程遠い姿勢と言わざるを得ない。

 開催都市や選手を軽視し、五輪のイメージを傷つけた責任は大きい。IOCは厳しく反省し、今後の行動で信頼を取り戻すよう求めたい。

 札幌でまず行わなければならないのは、コースと日程の設定である。これが決まらないと、準備や選手の強化に取り掛かれない。

 選手の輸送や宿泊、沿道警備、スタッフの配置をどうするかも課題だ。大勢のボランティアも新たに必要になる。

 難問は追加経費の分担である。都が負担しないことだけは決まったが、結論は先送りされた。IOCや組織委との協議の行方は見通せない。

 札幌への変更の引き金になったのは、中東ドーハで行われたマラソン、競歩で棄権者が続出したことだ。東京の暑さは織り込み済みだったが、惨状を目の当たりにし、五輪で同じことが起きるのを恐れたのだろう。

 だが、札幌でも今年8月に最高気温が30度以上の真夏日が8日間あった。場所を変えても暑さから逃れられるわけではない。

 そもそも、夏の盛りに開くこと自体に無理があるのではないか。東京の次の開催地パリでは今夏、40度を超えた日もあった。

 真夏に行う背景には、巨額の放送権料を支払う米テレビ局の意向がある。欧米の人気スポーツが多い秋は避けたいというわけだ。

 放送権料がIOCの収入を支えているのは事実だ。しかし、スポンサー優先の金権体質を改めなければ、低下が著しい五輪招致熱はさらに弱まろう。IOCは、今回の混乱を選手第一の原点に立ち返る契機とすべきである。