瀬戸内寂聴

瀬戸内寂聴著「命あれば」

 97歳の現在も、複数の文芸誌に連載を抱える作家のエッセーである。面白くない訳がない。徳島市出身の瀬戸内寂聴さんが随筆集を出版した。「お亡くなりになるまで・・・」という約束で、1997年から京都新聞に連載している随筆欄の作品から62話を厳選。いくつになっても、喜び、笑い、怒り、嘆きを語ることを忘れない寂聴さんの文学への情熱がたっぷりと味わえる一冊だ。「命あれば」の題にも思いがこもる。

 季節の移ろいを愛で、新しいことに挑戦し、死と生と老いを思う寂聴さん。懐かしい文化人たちとの交流をしのび、非情な事件や荒廃した政治を憂う。

 「女の時代」(2005年)は、日本の男性の人口が減少したという報道を受け、感慨をつづった。長い戦争時代に青春を送った寂聴さんの世代は、男は大量に戦場に向かい、戦死した。当然、女たちの人口が多くなった。女学校時代の同級生は戦争未亡人が多く、再婚した人も少なくない。未婚に終わった人もたくさんいた。

 そして、戦後。女が男と同じように高等教育を受け、職場に進出した。自分の能力が男にひけを取らないことを知り、必ずしも結婚しなくても子どもを産んで自分で育てられることも体験した。「今さら、男の人口が減っても怖くない」と語り、女は戦争の無い時代を築く覚悟があると断言している。

 古里徳島に関連した作品も多い。「文楽を守れ」(12年)では、幼少期に人形浄瑠璃の三番叟まわしを見て正月の訪れを感じたことを懐かしみながら、伝統芸能の文楽の支援に理解を示さない行政を批判した。「奇跡の帰還」(09年)は、徳島市で起きたラジオ商殺し事件に関し、冤罪として市川房枝さんらと支援した日々を振り返りながら、他界後に無罪を勝ち取った冨士茂子さんの無念に思いを寄せている。

 この他、岡本太郎、川端康成、三島由紀夫ら今は亡き文化人らのエピソードも作家生活の長い寂聴さんならでは。後書きに「もうすぐ百歳になる私にとっては、今出る本のすべてが、遺言となる」とメッセージを添えている。

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 「命あれば」は新潮社刊、1210円。