「農業は男性の仕事」と思っている人が多いのではないでしょうか。確かに、力仕事の面はあります。それに加えて、農村では家父長制の考え方が色濃く残り、長らく農家の女性は「裏方」に徹してきたからでしょう。しかし、県内の農業の就業人口は、男女でほぼ同数。政府は「あらゆる分野において、2020年までに指導的地位に女性が占める割合を少なくとも30%程度にする」という目標を掲げています。県内の農業委員やJA役員にも少しずつ、女性が増えています。

泉市長㊧に女性の積極登用を要請する谷口会長‖鳴門市役所

 「元々は歯科衛生士。実家も農家だったけど、手伝ってなかったから、若い頃は農業のことを何も知らんかったんですよ」。夫、娘夫妻と共にレンコンやコメを生産する谷口清美さん(64)はそう振り返って笑う。

 14年から鳴門市農業委員会の会長を務める。県内の農業委員会で初めての女性会長だ。それ以前にはJA堀江、合併後のJA徳島北で女性部長を7年務め、レンコン茶の特産化に尽力した。地域における女性農業者のリーダーだ。

 「昔から夫は『これからは女性の時代』と言って外に出るよう背中を押してくれたし、義理の両親も意見をよく聞いてくれた」。活躍の裏には家族の理解があると話す。

 レンコン農家の夫と結婚したのは20歳の時。出産後、歯科衛生士の仕事を辞め、農業の世界にだんだんと足を踏み入れていった。

 1996年に農業者年金に加入した。県内の女性第1号だったという。「今も『嫁』の立場では、(家の中で)加入したいと言いにくいケースがある」として、加入への理解を呼び掛けている。このように女性だから気付くことがあり、「農業分野でも意思決定の場や役職に、女性がもっと必要だ」と訴える。

 「ますますの女性の登用をお願いしたい」。谷口さんら県内の女性農業委員は今夏、2020年に農業委員の改選がある19市町村の首長を訪問し、農業委員と農地利用最適化推進委員に女性を任命するよう要請した。

 県農業委員会女性協議会と県農業会議は16年からこうした働き掛けを続けている。この結果、14年に33人だった女性委員は現在54人に増えた。しかし、全体の15%にとどまる。推進委員の女性は、全体のわずか3%の7人しかいない。

 県内の全15JAの女性役員も増加傾向にある。現在は理事・監事計377人のうち、女性は10%の37人。09年は456人中、10人しかおらず、全体の2%だった。

 意思決定の場に女性が増えている背景には、「2020年までに指導的地位に占める女性の割合を少なくとも30%にする」との政府方針がある。市町村やJAの取り組みは浸透しつつも、30%という目標値にはまだまだ遠い。

 農業の男性中心社会は、家族の在り方や福祉制度が深く関わる。1970年代、政府は「日本型福祉」の名の下、育児や介護を家庭内の自助に委ねた。特に農家では家父長制の名残が強く、「嫁」が農業と家事に加え、子どもや高齢者の世話を一手に担った。「働き手の男性」と、「家を守る女性」という分担が固定化された。

「外で発言する女性が増えてほしい」と話す坪内さん=勝浦町

 「農家の女性として生まれたけど、娘と嫁とでは社会からの見られ方が全然違った」。イチゴ農家の坪内奈津子さん(74)=勝浦町=はこう話す。阿南市から結婚して移り住んだ後、寄り合いに行って、「私はこうしたらいいと思う」と発言すると、そっぽを向かれた。「『よそ者』『女性』という偏見があったんでしょうね」と振り返る。

 このため、農業分野の女性の地位向上について発言を続けている。2002年には初めて設置された県男女共同参画会議の公募委員になった。

 今も農家の女性からはさまざまな声が聞こえる。「『ご飯を作る人がいなくなる』と家族に外出を嫌がられる」「正当な評価や報酬がない」―。

 農家の家庭内での意識改革を促そうと、農水省は1994年から「家族経営協定」を推進している。それぞれの役割や労働時間、休日、収入の配分などを家族で取り決め、書面に記す。県内では現在千戸余りの農家が締結している。「家族でいろんなことを話し合う過程が大切。随時内容を見直して、話し合いを続けてほしい」と鳴門藍住農業支援センターの担当者は強調する。

 坪内さんも家族経営協定を結んでおり、今後に期待する。「農村でも家族の在り方は多様化していて、時代の変化を感じる。『家庭では女性が上』なんて言われるけど、外でも活躍し、女性がもっと農業を楽しんでほしい」。

 農業委員と農地利用最適化推進委員 農業委員会は各市町村に置かれ、委員は首長が議会の同意を得て任命する。農地の保護を目的に耕作放棄地にならないよう農地のあっせんをしたり、農地転用の申請を受け付けて審査したりする。市町村に政策提言をすることもある。農地利用最適化推進委員は2016年の農業委員会法の改正で新設され、農業委員と連携して担当区域での活動を担う。農業委員会が委嘱する。

 

 

 

 2月就農 夫と野菜12種栽培 豊﨑舞さん(阿波市)

 手伝いでなく「2本柱」で

「学んでから、農業が楽しくなった」と話す豊﨑さん=阿波市の「味菜園」

 「有機農家の夫と結婚。農業を『手伝う』のではなく、2本柱で農業をしたい」。農水省が進める「農業女子プロジェクト」のウェブサイトで、そう語る女性を見つけました。勤め先を辞め、2月に就農したばかりの豊﨑舞さん(37)=阿波市阿波町。どんな夫婦のパートナーシップが実現しているのか。話を聞きました。

 畑を訪れると、青々としたネギが育っていた。夫の達朗さん(37)と農園「味菜園」を営む。50アールの畑で年間12品目を育てている。

 生まれ育ったのは、香川県東かがわ市のサラリーマン家庭で、農業とは無縁だった。鳴門市にあるホテルの人事部門で働いていた2015年、阿波市で新規就農した達朗さんと出会って結婚。「夫からは『農業は手伝わなくていい』と言われてました。本人はそう言ったの忘れてるんですけど」と笑う。

 就農のきっかけは2年前、夫が長期にわたって体調を崩したこと。豊﨑さんは育休中で、1歳にならない娘がいた。自分が野菜を収穫し、出荷しないと農園が回らない。勤めていた職場に申し訳ない思いもあったが、退職を決断した。

 「当時は『手伝い』ですよね。なっているものを取って、詰めて、出荷する」。作業をしながら夫から有機農法の説明を聞くものの、よく分からない。

 「勉強しよう」。そう決意して昨年、小松島市にあるNPO法人とくしま有機農業サポートセンターに半年間通った。ハウスの扱い方やトラクターの使い方といった基礎から、土壌分析や肥料設計の手法までを学び、今年2月から本格的に農業に取り組んでいる。

 知識があると、「こうしたい」という気持ちが生まれる。「話し合って、方針を決めています。2人いると、議論ができて可能性が広がる」

 主な取引先は、無農薬野菜などの宅配サービスをする会社。豊﨑さんは新規取引先を2社、開拓した。ホテル勤務の前に、ブライダル業界などで営業をしていた経験が生きている。「夫は職人肌なので、役割分担ですね」

 娘は3歳になり、達朗さんは家事も育児も担う。「農業はすごく楽しい。学んで、自分が主体となって取り組み始めてからそう思うようになりました」。以前は夫が「畑を見に行く」と言っても、その気持ちが分からなかった。「今は、私も見に行きたいと思います」と笑顔を見せた。

 

 編集後記「家族経営協定で、男性の育児や家事についても盛り込んだらいいと思いますが、現実はそこまで進んでいませんね」。鳴門藍住農業支援センターの担当者がそう、つぶやいていました。

 取材の過程で「ご飯を作らないといけないから外に出られない」と、女性から何度も聞きました。意思決定の場への女性の登用を進めると同時にぜひ、男性の家庭進出を進める施策にも取り組んでほしいと思います。

 谷口清美さんは「お互いが得意なことをする、という考えで夫とは一致している」と話します。農業分野に限ったことではありませんが、女性が活躍するためには、家庭内の男女共同参画が大切だと改めて感じました。