どの桜も根元の土が掘り返されている。除染のために、土を取り除いたのかと思いきや、イノシシの仕業らしい。人けのない町を、わが物顔で闊歩(かっぽ)しているようだ。福島第1原発から20キロ圏にある福島県富岡町の「夜(よ)の森(もり)の桜」を訪ねた

 明治期に夜の森地区を開拓した際、記念に植えた2・2キロの桜並木は、道路を覆うようにトンネルをつくる。町企画課の猪狩勝美さんは「息をのむほどの光景」と言う

 そんな町のシンボルは、除染で枝が切り落とされたり、表皮が削られたり。通りを300メートル進むと、バリケードが立ちふさがる。臭いはなく、目にも見えないが、その先が放射線量の高い帰還困難区域であることを知らせる

 事故直後、全域に避難指示が出され、1万6千人が町を離れた。9割近くは避難解除されたものの、いま町に暮らすのは1200人ほど。このうち帰還者は6割にとどまっている

 一昨年春、7年ぶりに「桜まつり」が開かれ、今年は帰還困難区域で観桜バスを走らせた。かつての壮観さはないが、各地から古里を懐かしむ避難者が集った

 帰りたくても帰れない避難者は多い。「避難先で仕事を見つけ、そこの暮らしに慣れた人はなかなか戻れない」と猪狩さん。時間がたてばたつほど、帰還は難しくなろう。事故から8年9カ月という時の重さを突き付けられた。