高齢者の医療費負担引き上げが、安倍晋三首相の提唱する「全世代型社会保障」改革の目玉として急浮上している。75歳以上の後期高齢者が医療機関で支払う窓口負担を現行の2倍にする方向が固まりつつある。

 2008年4月に後期高齢者医療制度が導入され、かかった医療機関に費用の原則1割を高齢者自身が支払う仕組みとなった。「窓口負担1割」は制度の根幹だ。しかし、団塊の世代が75歳になり始める22年から原則2割に上げるという。

 医療費負担の増加は、収入の乏しい高齢者にとって、日々の暮らしに直結する。受診を控える心理が生まれるのは確実だろう。国民の健康維持に大きな影響が出れば、何のための医療制度なのか分からなくなる。政府は慎重に議論を尽くすべきだ。

 一方で、この制度を支えている現役世代の重い負担は軽視できない。

 大企業などの健康保険組合は、約6割が後期医療制度への「支援金」負担で赤字に追い込まれている。保険料は上昇し、年額50万円に達する勢いだ。高齢者医療費が現役世代の家計を圧迫している。

 健保組合の解散が相次ぎ、負担感、不公平感は増すばかりだ。何らかの制度改正が必要である。

 後期制度は、小泉純一郎政権下の医療制度改革で生まれた。主眼は医療費抑制だ。高齢社会の到来を見据え、「痛みの分かち合い」を国民に訴えた。

 75歳の誕生日を迎えれば、子の扶養家族の高齢者も健保組合や国民健康保険から切り離され、一人一人が後期制度の加入者となった。保険料を各自が支払うことで、医療へのコスト意識を高めることが狙いだった。

 1割の窓口負担を除く医療費負担は、加入者本人の保険料が1割。残る9割を税金と健保などからの支援金で賄い、社会全体で高齢者医療を支える仕組みとした。

 しかし、75歳で国民を線引きする制度は「現代の姥捨てだ」と世論の猛反発を浴びる。政府は見直しを約束。野党だった民主党は撤回を訴えたが、政権交代後も制度は生き残った。

 75歳以上の医療費は大幅に伸びている。導入時の08年度は11兆4千億円。18年度は16兆4千億円で、全医療費の38・5%を占める。後期高齢者分の伸びが、そのまま全体の伸びにつながっている。

 単に後期高齢者人口が増えた結果なのか。制度は医療費抑制にどこまで有効だったのか。施行から11年。国民に何も示されないまま、負担増に向けた動きが加速している。

 少子高齢化に伴って起きる問題は、当時から想定内だ。綿密な将来予測があって制度設計がなされたはずである。

 まずは制度自体の功罪を検証しなければならない。それがなければ、「窓口負担2割」がどこまで有効なのかも分からない。