「夏になると、蚊帳をつって寝てたよね」。さて、相づちを打つ人と打たない人の境は何歳ぐらいだろうか。裾をまくって内に入るときの、ごわっとした手触り。還暦過ぎの私は前者だ


 今、激動の現場で取材し、原稿を書いている記者たちは、どうだろうか。彼らの記事に「蚊帳の外」という言葉を見つけると、「見たことあるの?」と突っ込みを入れたくなる


 「電撃」走る北朝鮮情勢は、「蚊帳の外」だらけ。「蚊帳の外に置かれかねない」と焦った中国。急展開に驚いて「蚊帳の外に置かれた」と焦る日本。最前線を追うニュースの世界で、暮らしから消えた蚊帳は生きていた


 記者の仕事を始めるとき、先輩から「決まり文句は使うな」と教えられ、後輩にもそう伝えてきた。うなぎ上り、押っ取り刀、黄色い歓声、紅一点、御用―など、世相の変化も映して、紙面で見かけなくなった表現は多い


 悲喜こもごも、敷居が高い、二足のわらじ―など、元々の用途と違う使われ方をしながら、しぶとく残る言葉もある。年配の読者からは「誤用だ」とご指摘を受けることが多い


 運動記事ではかつて、先頭に登場する選手を「切り込み隊長」「核弾頭」と比喩することがあった。ほぼ駆逐されたが、最近、選手自身が「切り込み隊長として」と語る記事を見た。言葉を扱う怖さを思い知る。