子どもの引きこもり問題は、日常生活に埋もれるように時間が過ぎ、状況が変わらぬまま長期化する。だからこそ、親が悩みを打ち明ければ、機を逸することなく支援につなげなくてはならない。

 引きこもりの人々を社会につなげるため、厚生労働省が新たな対策を打ち出した。窓口を一本化し、「断らない相談」体制を組む市町村を対象に財政面で支援する。狙いは縦割り組織の改善だという。

 長期の引きこもりは、老親の介護や経済的困窮と結び付いて表面化することが多い。いわゆる「8050問題」だ。家庭内暴力や犯罪、精神疾患、アルコールやゲームの依存症など、多様な社会問題として福祉や医療などの窓口にも現れる。

 問題別の体制では、勇気を振り絞って相談しても「担当外」を理由にたらい回しにされたり、各担当者の間で情報が共有されなかったりする弊害がある。相談者を失望させては解決の道は閉ざされる。事態は悪化するばかりだ。

 財政支援がどこまで有効かは未知数だが、財源に苦しむ自治体にとって体制を見直す契機となるだろう。改善を促す一策として評価したい。

 しかし、それだけでは解決しない。意欲とスキルを持った人材がいなくては、せっかくの体制作りも効果を生まないだろう。

 内閣府の調査では、引きこもり状態にある人は40~64歳だけで全国に推計61万3千人いる。徳島県が初めて実施した調査でも、把握できた550人のうち、40代が最多の161人、次いで50代の100人、30代の91人と続く。10年以上引きこもっている人が42%と本県でも問題は深刻だ。

 地方の相談業務は、匿名性の高い大都市とは違った難しさを伴う。家庭が抱える問題が長期化する要因に、世間体の心理があるからだ。他人に知られたくないという思いから窓口との距離は遠くなる。

 「自分の力で何とか」という親の責任感も重なる。悩むうち、無為に時間が過ぎていく。小さな社会だからこそ細心の配慮が必要になる。人材育成へのサポートも国や県の重要な課題だ。

 元農水次官が家庭内暴力をきっかけに44歳の長男を刺殺した事件は、家庭内の問題がいかに社会とつながりにくいかを端的に物語っている。

 犯行直前の妻への手紙では「これしか他に方法がない」とつづっていた。官僚トップに登り詰めた人物でさえ、数十年に及ぶ葛藤を夫婦間に押さえ込んでいた。「殺される」と追い詰められながら、警察に相談することさえ思いが至らなかった。

 就職氷河期世代への政府の支援策は、非正規雇用だけでなく引きこもり状態にある人々への就労支援としても打ち出されている。ただ、就労に至る前段に高いハードルがある。乗り越えるには家庭と行政の連携が必要だ。殻を破る第一歩と、息の長い支援が求められる。