差別や排外主義をあおるヘイトスピーチ(憎悪表現)を罰則付きで禁止する全国初の条例が来年7月、川崎市で施行されることが決まった。

 ヘイトスピーチを「犯罪」と規定し、不当な差別を許さないという姿勢をはっきりと示した意義は大きい。

 条例は、道路や公園など公共の場で拡声器やプラカードを使い、特定の国・地域の出身者らに対して差別的な言動をすることを禁じている。

 市長は違反した個人や団体に勧告、命令を出し、それでも従わない場合に刑事告発する。各段階では、学識経験者による審査会の意見を聞き判断する。裁判で有罪になれば、最高50万円の罰金が科される。

 在日コリアンが多く居住する川崎市では6年ほど前からヘイトスピーチを伴うデモや街宣、集会が激しくなり、国が3年前にヘイトスピーチ対策法を定めるきっかけにもなった。

 ただ、対策法が罰則のない「理念法」にとどまっているため、ヘイトデモの件数は減ったものの、根絶には至っていない。

 尊厳を踏みにじる言動に傷つき、おびえ続けている人たちがいる実態から目を背けることなく、条例を成立させた川崎市と市議会の姿勢は評価できよう。

 だが一方で、規制が行きすぎることへの懸念も拭いきれない。差別的言動を抑止するための規定が、言論や表現の自由という憲法で保障された重要な権利を侵害してしまっては本末転倒だ。

 市は、恣意的な運用を防ぐために、審査会の意見を聞く手順を条例に盛り込んだと説明する。最終結論を司法に委ねることで公平性も担保したという。

 一連の過程は透明性を確保することが大前提となる。市は10月、元従軍慰安婦を巡る問題を題材とした映画の上映に介入し、批判を浴びた。条例の運用に際し、その反省を忘れてはならない。

 インターネット上でのヘイト行為は今回、刑事罰の対象にはならなかった。匿名性の高いネットには発信者情報の確認など、条例では対応の難しい部分が多いというのが主な理由だが、悪質の度合いは増している。

 ネットの書き込みをどう扱うかは、引き続きの課題である。法改正も視野に入れた検討が求められよう。

 インバウンド(訪日外国人客)の増加もあって、ヘイト被害は全国どこでも起こる可能性がある。

 本県では5年前、札所巡りの道案内ステッカーを貼る活動をしていた韓国人のお遍路さんを、中傷する貼り紙が数多く見つかった。その後は確認されていないが、二度と起きないような環境づくりが必要だ。

 外国人労働者の受け入れ拡大も今春から始まっている。ヘイト行為を許さず、多様な人や生き方を尊重する共生社会を築くことが急務だ。