米国社会の分断の深さが改めて浮き彫りになったばかりか、共和・民主両党の対立が修復の難しい領域に入ったことをうかがわせる事態だ。

 ウクライナ疑惑を巡り、トランプ大統領が議会下院で弾劾訴追を受け、史上3人目の不名誉な大統領になった。

 弾劾訴追決議は「権力乱用」と「議会妨害」の2条項からなり、いずれも野党民主党の賛成多数で認められた。

 投票では民主党が賛成、与党共和党が反対と、ほぼ党の立場に沿った行動となった。対立の構図はほとんど変わっておらず、世論も真っ二つに割れた状態という。

 弾劾手続きは今後、上院に移り、来年1月上旬にも弾劾裁判が始まる。上院は共和党が多数を占めるため、有罪判決が下される可能性は極めて低い。

 とはいえ、トランプ政権の威信低下は避けられまい。下院の協力が得られにくくなり、政策推進が滞る事態も懸念される。トランプ氏は決議を重く受け止め、対立をあおる言動をやめるべきだ。

 トランプ氏への疑惑は、ロシアとの紛争を抱えるウクライナに対し、軍事支援などの見返りに、来年の米大統領選で争う可能性があるバイデン前副大統領(民主党)周辺を捜査するよう圧力をかけたとされるものだ。

 そうした権力の乱用に加え、弾劾調査に協力しないよう政府高官らに指示するなどして議会の権限を妨げたとしている。

 国益より個人の政治利益を優先したとされる、極めて重い事案である。事実なら、米国の選挙の正当性に対する信頼が損なわれ、民主主義の根幹にもかかわる。

 にもかかわらず、共和党側は審議に真剣に向き合わず、党利を優先した。権力監視システムが十分に機能していない証左ではないか。

 上院の弾劾裁判では、出席議員の3分の2が賛成すれば有罪・罷免となるが、共和党にはトランプ氏を表立って批判する議員はおらず、大量造反は考えにくい。

 無罪の公算が大きいとしても、トランプ氏の疑惑は看過できない。真相解明は議会の責務であり、議員個々の見識も厳しく問われよう。

 この問題が来年の大統領選にどう影響するかは予断を許さない。トランプ氏は強気の姿勢を崩していないが、ダメージは小さくないだろう。

 トランプ氏が、有権者にアピールできる最大の「武器」は好調な経済だ。

 しかし、民主党との亀裂が決定的になったことで、計画中のインフラ整備計画や追加減税など、新たな経済対策は実現が難しくなった。

 移民規制の強化など、支持基盤の保守層をにらんだ施策も絶望的とみられる。

 社会の分断を背景にした党派対立は国益を損ね、世界にも悪影響を及ぼす。ただ、この事態を収拾できるのは米国民であり、国際社会は大統領選まで注視するしかない。