渡辺忠之さん

 美容院の経営や美容商材の企画・販売などを手掛ける企業「グリーンパス」を大阪市で起こしてほぼ半世紀になる。1994年からは美容師を育てる職業訓練法人「花園国際美容学院」も東大阪市に設立し、業界で幅広い事業を展開している。「道半ばだが夢の持てる業界にしたいとの理想を掲げ、これまでやってこられた」と顔をほころばせる。

 生まれは旧美郷村(現吉野川市)で、9人きょうだいの末っ子。3歳の時に父を亡くし、中学卒業後に大阪に出てステンレス部品などを作る工場で働いた。23歳の時に先輩が立ち上げた会社に入ったが25歳で退職。いったん古里へ戻り、美容院にパーマ液などの商材を卸す仕事に出合った。

 営業のノウハウを学び、独立の夢を抱いて再び大阪へ。直後に借家が火事になり商品が燃えるなどのトラブルに見舞われたこともあったが、美容師の妻と助け合いながら徐々に商いを大きくさせていった。

 美容業界で長く働くうち、労働環境が厳しい美容師の地位を高めることが業界の発展につながると感じた。待遇改善を図るため、職業訓練法人では、美容師の技能向上や資格取得などを進めている。「技術を高めるだけでなく、真心のこもった対応のできる美容師を育てることでサービスを向上させ、業界を盛り上げていきたい」と力を込める。

 生家のあった美郷村中村地区は山深い地域で、きょうだいも離れて久しい。「昨年、実家のあった場所に行こうとしたけど、道が悪くて断念してしまった」と寂しそうに話す。少子高齢化と過疎化が進む古里の現状に胸を痛めている。「古里は心が落ち着き、リフレッシュできる場所。これから何らかの貢献ができたら」とほほ笑んだ。

 わたなべ・ただし 中村山中学校(旧美郷村)、布施工業高(現布施工科高)卒。1970年にグリーンパス(本社・大阪市中央区)を設立し、大阪府内で美容院を経営するほか、美容商材販売などで近畿や中四国の美容院と取引がある。花園国際美容学院理事長も務める。東大阪市。75歳。