写真を拡大 帰省時に合わせて正月に相次ぐ成人式。徳島県内でも1日の徳島市入田地区を皮切りに各地で予定されている=同市内

 年末年始の帰省時に合わせて、各地で成人式が行われている。晴れやかな様子がテレビや新聞で紹介されるたびに、ある1人の成人式での出来事が頭をよぎる。

 その人は、50代後半の男性。生まれて間もなく脳性小児まひになり、両手両足と言語に障害がある。車いすで生活する重度障害者である。男性は障害者への理解を深めるため、学校への講演活動を続けている。自分の半生を語る中で「忘れられない出来事」として紹介するのが成人式だ。

 男性は、地元の中学校の体育館で行われた成人式に臨んだ。スーツを着てネクタイをして体育館の中に入った。周囲は、友だちと記念写真を撮ったり、「久しぶりやな。元気にしよんか」と談笑したりしている。しかし、男性は一人ぼっちだった。知っている同級生がいなかった。

 なぜか。男性は、幼少の頃から病院に入院し、小学校から高校までは地元から遠く離れた養護学校で寮生活だった。たった一日も地元の小学校、中学校に通ったことがない。家の近所に友達が一人もいなかった。

 こうした経験から男性は、講演などを通して障害があっても地元の学校に通える仕組み作りを求めている。

 もう少し話を続けたい。男性が講演を始めたのは、自分の息子の幼少時の言動がきっかけだ。健常者の息子は、自然体で障害のある親を気遣うようになっていた。「障害者と触れ合っているから思いやりのある心が育ったのではないか。他の子どもも、自分と接すれば同じような心が生まれるかも」と考え、ありのまま姿で学校に出向くようになった。

 障害の影響で、話すためには相当なエネルギーを使う。振り絞るように言葉を発し、つないでいく。講演が終わると、どっと疲れるという。いじめなど実体験に基づく内容は、聴く人を引き込ませ、口コミで講演依頼が相次いでいる。

 男性は講演の最後で、いつもこう話している。「最後に三つのお願いをします。自分と周りの人の良いところを見つけてください。自分の周りの人を大切にしてください。三つ目は一番声を大にして言いたい。親からもらった一つしかない命をどうか大切にしてください」

 今年の成人式も、多くの人が久しぶりの再会を喜び、楽しい思い出として刻まれることだろう。でも、ふと周りを見渡してほしい。一人ぼっちの人はいないだろうか。いや、出席できなかった人もいるかもしれない。思いを寄せてほしい。声を掛けてほしい。そんな人が増えることが、思いやりのある社会をつくっていく。(卓)